031.叶わない

全身に、刺すような痛みが起こる。
指先ひとつ動かすのも辛い状況で、出来る事はただ歯を食いしばる事だけ。
天人と、人間の血。
普段は境界もなく溶け合っているそれは、年に一度…一週間だけ、恐ろしいほどの反発を起こす。
それにより、彼女の肉体は、布団から起き上がることすら困難になるのだ。

「…ハッ!」

痛みに耐えるようにと、息の塊を吐き出す。
しかし、それもまったくと言っていいほど効果はなかった。
自分が天人でも人間でもないと思い知らされる、悪夢のような一週間。
いっそこの喉を掻っ切ってしまった方が楽になれる。
自分の意志とは無関係に、身体が解放を望んだ。
震える手の平が刀の柄を握る。
この瞬間、自分の中からその立場も矜持も…何もかもが、消える。
右で柄を、左で鞘を握り、白銀の刀身を鞘から解放した。
そして、鞘を手放して、その刀身を―――

「何するつもりだ?」

低い声と共に、強い力で柄を掴んだ右手が、刀ごと畳へと押しつけられた。
痛みが万倍にもなって全身を駆け抜ける。
最早声を上げることすらできない彼女に、踏みつけられたのだと気付く余裕はない。

「来、るな…と…言っ、た…!」
「来ないとは言ってねェ。それより、答えろ。何しようとしやがった?」

ギリ、と手の甲を踏みつける力が強くなる。
唇を噛み締めれば、鉄臭さが口内に広がった。
そのお蔭で少しだけ意識が回復する。
手を押さえつけられたまま、彼女は見下ろす高杉を睨みつけた。

「…アンタに…何がわかる!?天人でも人でもない、こんな半端な…!!」

純粋な人間として生まれたかったと。
自分自身ではどうしようもない事を悔み、そして夢見るのだ。
純粋な人間になることが出来れば、と。

全ては、叶わぬ夢だと知りながら。


「…馬鹿か」

呆れたような声が聞こえ、そっと薄目を開く。
近付いてくる指先が見えても、逃げることもできはしない。
痛みの所為で目元に溜まった涙を、親指が拭い取っていく。

「天人だろーが、人間だろーが…てめー自身であることに変わりはねぇだろーが。くだらねーこと考えてる間に、さっさと治しやがれ」

吐き捨てるようにそう言う高杉は、いつの間にか彼女の傍らに腰を下ろしている。
自分の意思で治せるものならばとっくに治している。
そう思ったけれど、ほんの少しだけ、身体が楽になったと感じるのは気のせいだ。
これに乗じて身体を休めるべきだろうと判断した意識は、すぐに眠りの世界へと引き込まれていく。

「てめーが天人か人間だったとしたら―――」

こんな風に部屋まで見に来たりしねーよ。

眠ってしまった彼女に、高杉の声は届かない。

【 叶わない 】  高杉 晋助 / 朱の舞姫

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09.03.07