029.泣けない

キルアが自室にやってくる小鳥に餌を与えているのを知っていた。
彼女を姉と慕う彼は、彼女の来訪を拒むことなく笑顔で受け入れる。
まだ幼いキルアにとって、気紛れで小さな来訪者ですら、大切な友達だった。

「姉貴!」
「こんにちは」

庭を歩いていた彼女が、声に反応して顔を上げる。
もちろんキルアが居ることには気づいていたし、彼がこちらに気付いたことも知っていた。
嬉しそうに彼女を呼び止めたキルアの手には、例の小鳥がちょこんと翼を休めている。

「俺の止まったんだ!」

懐いてくれてるのかな!?
そう言って興奮冷めやらぬ様子で語るキルアに、自然と笑顔が浮かんでくる。
それと同時に、嫌な予感を覚え…ちくりと、胸が痛んだ。

「この子はキルアが好きなのね」

スッと手を伸ばして指先で喉元を擽るように撫でても、小鳥は逃げようとしなかった。
随分とキルアに慣れてしまった様子の小鳥に、胃の辺りが重くなるのを感じる。

「これから、こいつにビスケットをやるんだ!姉貴も一緒に食おーぜ!」
「ええ、そうね。じゃあ…少し仕事が残っているから、30分位したら、キルアの部屋に行くわ」
「待ってるからな!」

笑顔で自室に向かおうとするキルア。
そんな彼の背を、その名を呼ぶことで留める。
純粋に首を傾げる彼。

「姉貴?」
「…あまり、小鳥を部屋から出さない方がいいわ」
「?わかった」

理解していない様子だが、従順なキルアは素直に頷いた。
走り去っていく幼子を見つめ、静かに息を吐き出す。
優秀な殺し屋として教育されている彼が、ふと垣間見せる幼心。
あの、優しい感情を守ってあげたいと思う。
けれど…この家の中で、その優しさは認められない。

「ごめんなさい、キルア…」

切ない懺悔にも似た呟きが無尽の廊下に落ちる。





キルアの自室をノックする。
数秒と待たずに笑顔で迎えてくれるはずの彼が、その時ばかりは無言を貫いた。
部屋の中に気配は感じる―――にも関わらず、キルアはドアを開けるどころか返事もしない。
どくんと嫌な音を立てる心臓の動きを感じながら、自室のドアを押し開く。
絨毯に飛び散った、紅色。
嫌な予感が的中した。

「キル…ア…」

絨毯の上に座り込んでいる小さすぎる背中は、心なしか震えている。
泣いて―――いるのだろうか。
少し躊躇った彼女だが、静かに足を進めた。
初めて大切なものを失った彼は、その悲しみの耐え方を知らないだろう。
誰かが支えてあげなければならない。
いや、それは、彼女でなければならなかった。

「…泣いて、いないのね」

彼の正面にかがんだ彼女が、そう呟く。
キルアの全てが悲しみを表しているけれど、形として流れる涙はない。
彼女の呟きに反応して、キルアが口を開いた。

「俺の…所為だから。俺が、大事にしたから…。だから…俺が泣くのは、変、だから…」

途切れ途切れにそう答えた彼は、無表情にそれを見下ろしていた。
自分の所為で殺してしまった命に対して、自分が泣くのは変だ、と。
そう訴える彼が泣いているように見えて、無言でその小さな頭を抱き寄せる。

「泣いても、泣かなくても構わない。私は…何も見ていないし、聞いていないわ」

そう言って、ただ自分を抱き締める腕のぬくもりに身を任せ、唇を噛み締めるキルア。

何気なく、言われるままに奪ってきた命。
その重さが、初めて彼の心に混乱を生んだ。
今までの行動全てが間違っているような気がして、でもやはり逆らう事は考えられなくて。
グルグルと堂々巡りのように同じ事を繰り返す混乱の中で、何も言わず、拒まず…ただ受け入れて包んでくれる腕の温かさに救われた気がした。

【 泣けない 理由 】  キルア=ゾルディック / Free

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09.03.04