026.君と歩いた軌跡
ダムダム、と一定の間隔でボールが床と接して音を立てる。
それを耳にしながら、日誌の上にシャープペンシルを走らせた。
日誌をつけている彼女が彼に付き合っているのか、自主練習に励む彼が彼女に付き合っているのか。
その判断は難しい。
「…よし」
終了、と心の中で呟いて、今日の日誌を見直す。
誤字脱字が無いことを確認した彼女は、それを閉じてシャーペンを片付ける。
その間も、絶えずボールの音が響いていて、時折シュート音が重なった。
帰り支度を終えた彼女が、無言で流川の練習風景を見つめる。
真剣な表情でゴールに向き合う彼は、きっと自分の存在など忘れているだろう。
それが寂しいとは思わなかった。
少なくとも、コート内に入った時は、バスケに集中すべきだと思っている。
彼の集中力は、彼女としては好感を持つものだった。
ふと、考える。
彼との関係は…口で説明するならば、恋人同士なのだろう。
彼女が付き合ってくれないかと問い、色々とあったが、結果としては流川も応じた。
しかし、この制限された関係は、本当に恋仲だと言えるものなのだろうか。
一応は恋人同士なのだが、感情的な部分は宙に浮いているような気分になる。
彼の心が遠い。
「―――おい」
「!…どうしたの?」
「どうしたって…お前がどうした?」
彼女の隣に置いていたタオルを拾い上げた彼は、空いた手で彼女の膝元を指す。
不自然に滑り落ちた日誌が、不満げに体育館の床に転がっていた。
随分深く思考の世界に沈み込んでいたようだ。
「…何でもないの。それより…今日は、終わり?」
「………あぁ。着替えてくる」
何か言いたそうにしているのに、何も言わない。
そのまま部室へと歩いていく彼の背中を見つめながら、彼女は溜め息を吐き出した。
お互いに、言いたいことはあるはずだ。
けれど、どちらもその心の全て明かさず…いや、殆ど隠したまま、ただ時間だけを共有する。
後半部分だけを見れば、それは自分が望んだことのはずだ。
しかし…人の欲と言うのは、どうして際限がないのだろうか。
近付けば、より深い欲が首を擡げてくる。
こんなはずじゃなかったのに―――そう思う心の片隅で、確かに彼の存在を欲していた。
彼も、自分も、明確な言葉を何一つ告げないから。
だから、余計にそんな事を考えてしまうのだとわかっている。
けれど、止まらない。
「私たちは…どんな関係なんだろうね」
その答えは、彼女自身にもわからなかった。
【 曖昧な 関係 】 流川 楓 / 君と歩いた軌跡