025.失われた
河川敷に座る背中を見つけた。
散歩途中だった愛犬エリーも、それに気付いて嬉しそうに尾を揺らす。
しかし、いくらも近付かない内に足を止めた彼女に、行かないの?と言いたげに首を傾げて見上げてくるエリー。
そのリードをしっかりと握り、彼女は沈黙した。
その背中はどこか儚くて、近付くことを憚られる。
見えない壁が彼女を拒んでいるような気さえした。
エリーがクゥン、と小さな鳴き声をあげる。
そんな彼女の頭を撫で、行こうか、とリードを引いた。
歩き出したのは彼の方ではなく、散歩に戻る向きだ。
飼い主である彼女と、大好きな彼とを交互に見たエリーは、戸惑うように迷いながら足を出す。
三歩ほど進んだか、進んでいないかと言う所で、ジレンマに耐えかねたエリーが大きく吠えた。
当然、背中を向けていた彼も、二人の存在に気付く。
気付かれない内に立ち去ろうとしていた計画は水の泡。
機嫌よく近付いていくエリーに引きずられ、彼…筧のすぐ傍までやってきた彼女。
こうなれば、声をかけずに去る事は出来ないと、「…どうも」と声をかける。
「…よぉ。来てたんだな」
「…うん」
筧が、擦り寄ってくるエリーの頭を撫でながら答えた。
沈黙が二人を包む。
「何で声をかけなかったんだ?」
「…一人になりたいのかな、と思って」
「…………観に来て…くれたのか?」
「…うん」
彼女が躊躇った理由がわかったのだろう。
「今度試合だから」とその日程を伝えたのは彼で、「観に行くね」と答えたのは彼女だ。
試合に集中していてそんな事は忘れていたけれど、彼女は約束どおり来てくれたのだろう。
それならば、その結果も知っている、と言うことだ。
「…ごめんなさい。こういうこと、慣れてなくて…何て言えばいいのか、わからないの」
いい試合だった。
心の底から応援したし、どちらが勝っても不思議ではなかったと思う。
勝負である以上、勝敗があるのは仕方がないこと。
負けた彼らに…クリスマスボウルへの道はない。
「あんま、気を使うなって」
苦笑を浮かべる彼の隣に座る。
そして、川の流れを見つめた。
「お疲れ様」
「あぁ」
「今年のメンバーと一緒には行けないけど…来年は、頑張ってね」
「そうだな。…また、観に来いよ」
「うん。受験生だけど、観に行く」
「今度は勝つから」
そう言い切った彼に、彼女はふっと微笑んだ。
「頑張ってね。―――楽しみにしてるから」
【 失われた 切符 】 筧 駿 / トルコ桔梗