023.穏やかな

大型の船のメインマストの上に腰掛け、頬に当たる風を堪能する。
ブルーグレーの髪を、柔らかい風が巻き上げた。

「いい風」

目を細め、嬉しそうに微笑む。

「おーい」

下から声が聞こえ、彼女は目を開いて顔を俯ける。
甲板の上に立って、手を口元に翳しながら自分に向かって声をかける人物。
印象的な赤い髪が、風に踊る。

「もうすぐ昼飯だぞー」

下りて来いよー、と彼女を手招きする。
そこには上下の関係はなく、気さくな…仲間、と言う繋がりだけが存在していた。
けれど、彼こそこの大型の海賊船を率いる船長なのだ。
そのギャップに、彼女はクスリと笑った。

「もう少しだけ」

呟くように告げた言葉は、きっと彼には届かなかったのだろう。
ただ、何かを言ったと言う事だけが伝わり、何だ?と首を傾げている。

「もう少しだけー!」

風に掻き消されないように、彼女は少し大きめに声を上げた。
今のは聞こえた、そんな返事の代わりに、親指と人差し指で大きな丸を作る彼。
そんな彼は、その後少しだけ考えるような仕草を見せた。
そして、唐突に見張り台まで続く梯子を上り始める。

程なくして見張り台へと到着した彼に手招きされ、彼女は不安定なヤードの上を歩く。
そして、トンッと踏み切って見張り台の上へと下り立った。

「何?」
「お前…危ねぇな」

落ちたらどうすんだ、そう言って、彼がこつんと彼女のこめかみに拳を当てる。
全く痛みなどない。

「落ちないわよ」
「わかってるけどな。寝不足の時は落ちそうになるだろ」
「時たまでしょう?平気平気」

心配性ねぇ。
笑いながらそう告げる彼女に、これ以上は無駄だと経験が訴えてくる。
一度だけ溜め息を落としてから、見張り台の上からの景色に目を向けた。

「いい風だな」
「ええ、追い風だし、風力も丁度良い。この分だと、二日分くらいは距離を稼げるんじゃないかしら」
「そいつは最高だ。伝えておけよ」
「了解、キャプテン」

ピッと敬礼する彼女に、うむ、と尊大な頷きを返す彼。
どちらとも無く視線を合わせ、笑い声を上げる。

「昼飯はどうするかな」
「もう少し風を堪能してからでもいいんじゃないかしら?」
「良い案だ」

彼の手が柔らかい髪質の彼女のそれを撫でる。
猫のように目を細めた彼女は、穏やかな時間に身を任せるようにその肩に凭れかかった。

【 穏やかな 】  シャンクス / 果て無き航路

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09.02.24