019.鮮やかな

車窓から見える夕日がとても綺麗な日だった。
真上から降りてくる藍色のヴェールから逃げるように、山の端に沈む朱色。
徐々に変化するグラデーションはとても美しく、そして何故か哀しい気持ちにさせられる。

「何考え込んでるんさ?」

向かいに座っていたラビには、彼女の表情の変化は筒抜けだったのだろう。
そう声をかけられ、一度夕日から視線を逸らす。
目が合うと、彼は「ん?」と首を傾げた。
夕日のような色の髪が、首の動きと一緒に揺れる。

「日本には、逢魔が時、って言う言葉があるんです」
「おうま?」
「えっと…こう、書きます」

手帳を取り出して、万年筆ですらすらと漢字を書く。
当然ながら、英語圏を生きるラビは、書かれても読む事は出来ない。

「で、その逢魔が時、ってのがどうした?」
「今がそうなのかな、と思って」

ガタン、と馬車が揺れた。
どうも道路状況がよろしくないようで、先ほどからよく車輪が跳ねる。
舌を噛まないようにしないと、と思いながら、窓の外へと視線を動かした。

「どういう意味さ?」
「魑魅魍魎が出現しやすい時間帯だと言われています。要するに、あまり良い時間ではないということですね」
「へぇー…魑魅魍魎」
「アクマならば破壊できますけれど…魑魅魍魎相手には、どうなんでしょうね?」

吸血鬼は何とかなりましたけど、と呟く彼女の脳裏に浮かぶのは、仲間になったクロウリー。
同じものを思い浮かべたラビは、確かに、と頷く。

「吸血鬼は元々実体があるからなー…」
「実体がないものには直接攻撃は無意味でしょうから…ラビは面倒そうですね」
「うっわ。嫌なこと想像させんなよ」

ラビは口元を引きつらせてそう言ってから、彼女に倣うように外を見る。
夕日が沈み始めていて、より濃い藍色が迫ってきていた。
言葉を失うほどの景色だ。

「しかし…勿体無ぇな」
「え?」
「こんな綺麗なのに、気味が悪いって思われるんだろ?」
「…まぁ、昔は。でも、そう呼ばれているからと言って何をするわけでもありませんし」

いいんじゃないですか?と実にあっさりした反応だ。

「私自身も、今ふと思い出したくらいです。これを教えてくれたのは父で…その時は、怪談話をして、私を怖がらせようとしていただけですしね」
「怪談は苦手なタイプ?」
「いいえ?寧ろ父の方が苦手なので、私をそっちに引きずり込もうとしていたんですよ」
「…何か…。まぁ、あの人ならそうかもなー…」

面識があるラビは、思わず苦笑を浮かべた。

「鮮やかな夕日は、いつもよりも影が濃くなりますよね。その影を魑魅魍魎だと思った人が言い始めた―――私は、そうだと思っています。事実は知りませんけれど」
「影、ねぇ…」

確かに、濃い朱色に照らされたものが作る影は、赤と黒の対比がきつい。
間違えても仕方がないかもしれないが…事実はどうなのだろうか。

「結局の所、この時間帯は嫌いなんか?」
「寧ろ好きですね。太陽が、一番美しい時間だと思います」

夕日に照らされた彼女は、そう言って美しく微笑んだ。

【 鮮やかな 夕日 】  ラビ / 東国の使徒

Menu(お題順) Menu(ジャンル別)

09.02.09