018.極彩色の
「だから、そこで言ってやったんスよ!アンタより人里に下りてくる猪の方がまだ見れる顔だ、って!」
「それはまた…随分と過激な言葉ですね」
「当然ッス!あの女、姐さんのことをこっ酷く馬鹿にしやがったんスよ!?」
「これだから野蛮な女は…。あなたもその女とそう変わらないでしょう」
「喧嘩売ってんスか、武市先輩!?」
あんな女と一緒にするなんて!と憤慨する来島の腕が当たり、テーブルの上の酒瓶が床に転がった。
中身は既になくなっており、零れると言う被害はなかったけれど。
「姐さんはそんな事思いませんよね!?」
「少なくとも、また子はあの人よりはずっと可愛いわよ」
「ほら見ろ!」
彼女の言葉に、得意げに胸を張る来島。
主人に褒められた子犬のようだと思ったのは内緒にしておこう。
「大体、身の程知らずなんスよ。あの程度で晋助様に近付こうなんて…」
興奮と共に立ち上がっていた来島は、勢いよく椅子に戻る。
グイッと煽った酒は随分と強いものだったと記憶しているが…いつものことなので、何も言うまい。
「そうですか?あの女、中々…そう、5年前もなら、いい線を行っていたと思いますよ」
「5年も遡ったら10代前半じゃないッスか!いい線も何もまだガキッスよ!?」
これだからロリコンは…!と呟いた来島の声は聞かなかったことにしよう。
独特の嗜好を持っていようが、自分に害がなければ問題はない…筈だ。
グラスを半分ほど満たす無色透明の液体をのんびりと喉に通しながら、彼女は仲間の話に耳を傾ける。
「随分と暇そうだな」
「あの会話を聞いているのは中々楽しいわよ?」
いつの間にか近付いてきていた河上が、彼女の隣に腰を下ろした。
彼の背に、いつも持っているものは見当たらない。
どうやら、初めから飲むつもりでここに来たようだ。
頼まれるまでもなく、河上の好みの酒をテーブルの端から引き寄せて差し出す。
「晋助が戻っているでござるよ」
「…そう言えば、あなたと一緒に出かけていたわね。お帰りなさい」
「ぬしに声をかけておくよう託った」
「そう。ありがとう」
そう答えながらも、動こうとせずに酒を飲んでいる彼女に、河上の視線が固定される。
彼の視線に気付いたのか、彼女は肩を竦めて見せた。
「晋助の所には行かぬか?」
「行くわよ。後から」
「拙者はちゃんと伝えたでござる」
「ええ、聞いたわ」
「晋助の機嫌が悪くなるのは困る」
「万斉」
要は、早く行け、と言い続ける彼を、少し強めの声で止める。
グラスから手を離した彼女は、静かに河上を見た。
「あなたは釣った魚に餌を与えて大事にするタイプね」
「……………」
「晋助は、釣った魚を広い水槽で自由にさせる放任主義よ。何をするのも自由。ただそこから出ようとさえしなければ」
「…つまり、言うことを聞くつもりはないと言う事でござるか?」
「強制されていない、と言う事よ。あの人は『私』を知っているの」
カラン、とグラスの中の氷がガラスの底で踊る。
空になったそれを片手に、彼女は立ち上がった。
「私も、『晋助』を知っている」
ふと、足を止めた彼女の視線の先を追う。
入り口の所で壁に背中を預けているその人を見て、彼女は小さく口角を持ち上げた。
「あなたに説かれるまでもないわ」
台所へとグラスを運んでから、彼女は扉の方へと歩き出した。
合流した二人は何を言うでもなく、一瞬視線を合わせただけで、示し合わせたようにその場を去っていった。
そんな二人を見送り、ふむ、と顎に手をやる河上。
「拙者には理解しきれぬ関係…か」
【 極彩色の 会話 】 鬼兵隊 / 朱の舞姫