017.息苦しい

「―――――――」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」

何かを言おうと息を吸い、しかしそれをただの溜め息として吐き出す。
そんな彼女を前に、四人は屋上のコンクリートの上に正座していた。
無言で、冷めた表情を隠そうともせずにそれを見下ろす彼女に、四人はただただ沈黙する。
彼女の手に握られているのは、自分たちの命…と言うわけではなく、中間テストの答案だ。
ただの紙切れではない。
それは自分たちのサッカー部創設を左右する、大切な希望である。
それを握る彼女の手が自分たちの首にかかっているような…そんな錯覚を起こすのは何故だろうか。

「…あんな、それ―――」

沈黙に耐えかねた直樹の、消え去りそうなほどにか細い声は、即座に向けられた射抜くような視線により続きを失った。
彼の行動は勇気ある行動と言うよりは、無謀だったようだ。
じろりと睨んでからは大人しく口を閉ざす彼に、彼女は深々と溜め息を吐きだした。

「―――予想外よ」

正直、これほどとは思ってなかった。
そう呟く彼女の目に答案用紙の隅に書かれた点数が見える。
平均どころか半分もない点数の中には、信じられない事に一桁のものまで見える。
目の錯覚だと思いたいけれど、不可能であることは彼女自身が嫌と言うほど理解していた。

「初期入部部員全員が、テストで6割以上。サッカー部を作る上での条件の一つなんだけど…どうするつもり?」

ちなみに、平均は6割にも満たない。

「今回は特に力を入れるようにって…何度も念を押しておいたわよね。井上から順に、勉強時間を教えてくれる?」
「…前日に…1時間?」
「…同じくらい」
「…右に同じく」
「…1時間…半?」

自覚があるからこそ、声が小さくなる四人。
彼らの答えを聞き、軽く眩暈を覚えたのも仕方のないことだと思いたい。

「…OK。対応策を考えず、個人の勉強方法に任せた悪かったわ。
丁度、来週には実力テストがあるから…週末は勉強会ね」
「え゛。週末はサッカー…」
「サッカー部が出来なくてもいいなら」
「スミマセン」

尻すぼみに縮んでいく四人を一瞥してから、答案用紙をそれぞれに返す。

「アンタは…どうなんだ?」
「私?」

学年が違うから、彼女の学力を知らないのだろう。
柾輝の質問に、彼女は自身のカバンに手を差し込み、それを探す。
そして、見つけ出した彼へと差し出した。

「98、97、98、96…100…」

読み上げられた数字に、化け物…とでも言いたげな視線が彼女に向けられる。

「生徒会長ですからね、これでも」

もちろん、学力だけが全てではないけれど、生徒会を代表する者として、低い点数を取るわけにはいかない。
自分よりも劣る者の言葉に説得力を見出すのは難しいのだ。

「先生に質問なんて出来ないししないだろうから、私が教える。文句は?」

スパルタであろう事は、予想するに容易い。
だが、先生に質問するなど…出来るわけがない。
反対の声は上がらなかった。

「「「「よろしくお願いします」」」」
「ん。サッカー部設立の為にも、頑張ろう」

微笑む彼女に、どれほど励まされ、助けられているのだろうか。
怒らせると怖いが、それは全て自分たちの切望であるサッカー部設立の為とわかっている。
尽力してくれる彼女だからこそ、嫌いな勉強もやってみようと言う気分になったのだろう。
そうして努力した結果は―――言うまでもないことだ。

【 息苦しい 時間 】  飛葉四人 / 夢追いのガーネット

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09.02.07