012.甘い
『…っ甘ェ!!何食いやがった!?』
そんな声が聞こえて、瀬那はモン太と顔を見合わせた。
今まさに入ろうとしている部室の中からの声に、思わず足を止めた二人。
瀬那の手は不自然にドアの取っ手へと伸ばされたまま、微動だにしない。
「今のって…ヒル魔先輩の声だよな」
「う、うん。…何か…めちゃくちゃ、タイミング悪そうだね」
『何って…キャラメル味?』
「あ、紅先輩」
「そういや、さっき部室に入っていくの見たな」
思い出したように答えるモン太に、なるほど、と頷く。
さて、ここからどうするべきだろうか。
『何で、んなもん食ってんだ!?甘臭ぇ!』
『決まってるじゃない。―――嫌がらせ』
「うわ!先輩、勇気あるなぁ…」
「って言うか、あの人くらいだよね。ヒル魔先輩に堂々と嫌がらせとか出来るのって」
「あぁ。まもりさんでも文句くらいだからな」
『覚悟は出来てんだろうな、テメェ…!』
「ヒル魔先輩ブチ切れてるぞ!止めた方が良くないか!?」
「そりゃ止めた方がいいだろうけど、どうやって!?」
「どうやってって、そりゃ…」
どうやって?と互いに顔を見合わせる。
二人の間に割って入る事は簡単だが、問題はその後だ。
無事では済まないであろう、確定した未来が想像出来た、二人は、静かに沈黙する。
『あぁ、それ…』
ガチン、と弾切れ独特の音がした。
『弾、抜いておいたわよ』
「…流石、紅先輩」
「俺たちが手を出す必要ゼロだな」
中の様子は見えないけれど、きっと彼女は手を止めることすらなく、淡々と答えているのだろう。
もしかすると、視線すらあげていないかもしれない。
ヒル魔とは長い付き合いだと聞いているが、後にも先にもこんな風に付き合えるのは彼女くらいだと思う。
『大体、舐めるからいけないんでしょ』
「「……………舐める?」」
二人が同時に首を傾げた。
舐める―――何を?
「えっと…紅先輩はキャラメル味を食べてて…」
「…ヒル魔先輩が舐めて、甘い…って………」
「「…………………」」
顔を赤くして黙り込んでしまう二人を他所に、部室内の会話は続く。
彼らの耳には入らなかったその続きこそ、事実を知ることの出来る内容だったのだが。
『置いてあったら食うだろうが』
『そう?いつもはガムを噛んでる人が、飴を舐めるとは思わないじゃない』
『切れてんだよ。買って来いっつっただろうが』
『あぁ、そう言えば頼まれてたのを渡してなかったっけ。はい、どうぞ』
『チッ。大体、これのどこがノンシュガーだよ』
『あ、それ。入れ物がなかったから適当なのに入れてきたの。中身は別物ー』
『………わざとだな、テメェ…』
『やっと気付いた?』
【 甘い 菓子 】 蛭魔 妖一 / ペチュニア