010.腐っていく
二週間目に突入する雨。
外が大好きな精神年齢子供組は、キッチンから見える空を見上げて不満顔だ。
不貞腐れた様子でテーブルに上半身を預けるルフィの隣で、必死に身繕いをする黒猫一匹。
雨による湿気の所為で毛並みが落ち着かないのか、何度も顔を洗う仕草を見せている。
と言っても、元は人間である彼女は、手を舐めて身体を擦る事はせず、手で顔を擦るだけ。
「ナミ~…いつになったら止むんだ、この雨」
「さぁ…。この低気圧を抜けたら、止むんじゃないの?」
日に日に、それこそ身体にキノコでも生えそうなほどに落ち込むルフィに、ナミは心中で苦笑を零す。
初めの三日間は楽しげに雨に濡れて遊んでいた彼がキッチンで腐っている理由は一つ。
それは、今も彼の傍を離れない黒猫にあった。
「仕方ないわよねぇ。水が嫌いな猫の方が一般的なんだから」
一般的に綺麗好きと言われる猫には、水を嫌うものが多い。
元が人間であっても、猫の姿の時の習性はそう簡単に拭えるものではないのだ。
普段の天候ならば一緒になって楽しく過ごす彼女が、屋根のある場所から離れようとしない。
必然的に『一緒に』過ごせないと言うことに気付いたルフィは、四日目には外に出なくなった。
そこから、かれこれ10日。
天気に関してはどうすることも出来ないのだから、苛立っていても仕方がない。
今一気に入らないヘアスタイルであることを無視し、続く雨が船を傷めないだろうかと案じる。
「…前の島の村長さんの話だと、この気候の海はもう二日くらいで抜けるから…もうすぐ、止むかもしれないわね」
航路を確認していたナミがそう呟いた。
その言葉に、ルフィの長い溜め息が聞こえてくる。
「二日か…72時間か…長ぇなぁ…」
「48時間よ。三日に増えてるじゃないの」
まぁ、それくらいかかるかもしれないけど。
そう言った彼女に、再びハァーと長い溜め息を零す。
誰か溜め息ボックスを用意してくれ、とこめかみを押さえるナミ。
このままでは、キッチンは重苦しい二酸化炭素に溢れてしまいそうだ。
ナミはルフィが外を見ているのをいい事に、つんつん、と尻尾をつついた。
気付いた彼女が振り向くと、部屋を出て欲しいと目配せする。
それを理解したのか、彼女がトン、とナミの肩に乗った。
相変わらず爪を立てることもなく、器用にバランスを取っている。
「ルフィ。ちょっと部屋に行くね。すぐ戻るから」
「おー」
ちゃんと声をかけて心配させないようにしてから、行こう、と言うようにナミの背を尾でぽんと叩く。
それを合図に、ナミは彼女を乗せて部屋へと向かった。
「何とかできないの?」
「うーん…ちょっと難しい、かな」
「あんたに無理なら、他の誰にも出来ないじゃない」
「だって…さっき、『あの雲の所まで飛んで行って蹴散らせねーかなー』って言ってた」
「…普段からまともじゃない思考回路が既に限界みたいね…」
不可能だということに思い至らない所まで進んでいるようだ。
重症だ、と眉間を押さえるナミに、彼女がこう続けた。
「ね、ナミ。雨合羽って作れる?」
「…完全防水じゃなければ、一時凌ぎ程度のものは。材料的に、人間用は無理ね」
「なら、猫仕様のものでいいから作って」
彼女の考えが読めたのだろう。
ナミは口角を持ち上げ、「任せて!」と拳を握った。
早速、意気揚々と作業に取り掛かる彼女を残し、足音なく部屋を去る黒猫。
「…早く晴れるといいなぁ…」
黒猫の呟きは、三日後に空へと届いた。
【 腐っていく 思考回路 】 ルフィ / Black Cat