003.広がる

見るもの全てに感動を覚え、自分がいかに井の中の蛙であったかを再確認する。
歴史を守る事は大切だけれど、それだけでは駄目だと思った。
少なくとも、世界を知り、自分自身の立ち位置確認してからでも遅くはなかったはずだ。
そうして、世界と繋がることが出来ていたならば…一族は、滅亡への道をたどる事はなかったかもしれない。
蜘蛛に襲われた時点で、彼らには自分たちで一族を守るほかに術はなかったからだ。
あの時点で、誰かに頼ることが出来ていたならば、未来は変わっていたかもしれない。
もちろん、変わらなかった可能性も捨てきれない。
しかし―――何かが変わっただろうと、そう思う。

「クロロ」
「どうした?」

本を読む彼の背中を借り、ぼんやりと窓ガラスの向こうを見つめる。
今回のホームは、とても綺麗な建物だ。
ふかふかのベッドの上で読書を楽しむクロロに凭れかかって、すでに数時間。
何もない時間が、こんなにも楽しいとは思ってもみなかった。

「広いわね」
「……何が広いんだ?」
「世界」

知識ばかりを得ていても、所詮は紙上のもの。
他の人間が見て、聞いて、感じて―――そして記されたものを、どうして完全に共有することが出来ようか。
知っているつもりになっていただけなのだと、気付かされる。
飛び出した世界は、恐ろしいほど色に溢れていた。
たとえ知っていることだったとしても、違う視点から見るものは同じではない。

「世界中を知るなんて、一生かかっても無理そうね」

自分の生きている場所など、世界からすれば本当に小さい範囲でしかない。
それを知ったとき、彼女の世界は一回りだけ大きくなった。

「当然だろう。どのくらいの大きさかは知っているだろ?」
「ええ、そうね」
「全てを知ろうと考えることそのものが傲慢でしかないな」

ペラ、とページを捲る音が聞こえる。

「世界が広いんだって事を…知っていたなら、どうなっていたのかしら」
「何も変わらないな。…俺が緋の眼の存在を知らなければ、変わったかもしれないが」

隠し事をしない彼だからこそ、その言葉は事実としてすんなりと彼女の中に溶け込んだ。
それでも。

「私は…少なくとも、あなたたちとは…あなたとは、出会わなかったかもしれない」

あの時点で世界の広さを知っていたならば、籠の鳥にはならなかっただろうから。

「だから…これでよかったんだと、そう思いたいわ」

窓枠の中を飛んだ鳥を見つめながら、彼女は呟いた。

【 広がる 世界 】  クロロ=ルシルフル / Ice doll

Menu(お題順) Menu(ジャンル別)

09.01.19