095.一通の手紙

突然、彼女は高杉と共に消えた。
言付けを残すことも、手紙を残すことも…直接、言葉を残すこともなく。
彼女は、その存在だけを記憶の中に残し、ただ風の様に消えた。
高杉のことも気にしなかったと言えば嘘になるだろう。
内に潜ませた狂気を知っていたからこそ、あの男の進む先を案じたこともある。
それよりも、強いのに弱い彼女のことが心配だった。
惹かれていた事は知っていたし、高杉と生きることを決意していたこともわかっていた。
けれど、自分たちも彼女の仲間だったことに変わりはない。
それなのに、一言すら残してもらえなかったと言う事実―――
それは、どうしようもなく切ない感情を抱かせた。

月日は流れ、銀時は一人、万事屋を立ち上げた。
金を貰う代わりに色々なことを行う、何でも屋のような仕事だ。
それこそ犬の世話から迷子猫探し、屋根の修理など、その仕事は多種多様。
意外にも器用だった彼だからこそ出来る仕事だとも言える。
程よくサボり、偶に本気を出しながらも、のんびりとした日々をすごす彼。
そんな彼の元に、一通の手紙が届いた。

「…宛名はなし、か。ラブレターの線は消えたな」

自分にそんなものが来るとは思っていないけれど。
表を見ても裏を見ても、宛名も差出人も見当たらない。
陽に透かしてみるが、刃物らしきものは入っていないようだ。
とりあえず、と慎重にそれを開く彼。
取り出した手紙は二つに折られている。
ゆっくりと指先でそれを開き、中身に目を通す銀時。
その目が一文字目を映すのと同時に、彼は驚いたような顔を見せた。

「―――――馬鹿じゃねぇの。そんなの…こっちのセリフだ…」

やり場のない感情のままに手紙を握りつぶそうとして、でも実行する事はできず。
丁寧に封筒の中へと戻した彼は、そのまま机の引き出しへと落とした。





「新八ー。これ、何アルか?」
「神楽ちゃん…駄目だよ、銀さんの机の引き出しを勝手に漁っちゃ」
「何か入ってたネ。期限切れだと大変ヨ」
「…見たところ普通の手紙みたいだけど………って、神楽ちゃん!?それ、人のだからね!勝手に読んじゃ駄目だから!!」
「………チッ。ラブレターかと思ったけど、つまらない。男からの手紙ネ」
「…でも、男の人にしては随分綺麗な字で、洒落た便箋―――じゃなくて!元に戻しておく!!あの銀さんが残してるんだから、きっと大事なものなんだよ」
「銀ちゃんをからかうネタにならなくて残念アル」

銀時 / 朱の舞姫

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08.12.25