090.美術芸術
「コウさんコウさん!!」
あてがわれた部屋へと走りこんできたリオウ。
姉のように懐いてくれている彼は、多くのものを背負いながらも笑顔を絶やさない少年だ。
そんな彼の登場に、コウは読んでいた本を膝の上で閉じた。
「リオウ。そんなに急いでどうしたの?」
「像が完成したんです!」
「あぁ…アレね。リオウが設計図を集めて、必死に考えた像なんでしょう?おめでとう」
「是非見てください!」
コロコロと表情を変え、元気にコウの手を引こうとする彼。
まるで犬のようだと思った瞬間、彼の背後にはちきれんばかりに揺れる尻尾が見えたような気がした。
リオウはいつでも元気に、そして全力で好意を向けてくれる犬のよう。
対して、ティルは熱い部分を持ちながらも、いつも冷静沈着で…まるで、猫だ。
同じ天魁星でありながら、こんなにも違う彼らに、思わず笑みが零れてしまう。
促されるままに椅子から腰を上げたコウは、腕を引いていくリオウに従った。
「そんなに急がなくても大丈夫よ?」
「でも、早く見て欲しいんです!力作なんですよ!」
「そう。楽しみね」
実際に像を作ったのはジュドなのだが…彼が設計図を組み合わせたことに変わりはない。
よほど嬉しい出来栄えなのだろう、と少しばかり期待するコウ。
少しだけ腕を引く力を抜いたけれど、やはりぐいぐいと引っ張られていることに変わりはなく。
普段歩くのよりも少し早いペースで、そこへと辿り着いた。
完成したそれを見上げ、コウは言葉を失った。
「凄いでしょう!?」
「――――」
「ジュドの腕も凄いですけど、彼も褒めてくれました!選んだ設計図が良かったって」
「―――…そうね………いいんじゃないかしら」
興奮気味にジュドとの会話を口にするリオウに、コウは何とかそれだけを紡ぎだす。
ともすれば別の言葉が零れ落ちそうになり、慌てて唇を結んだ。
彼女にも褒めてもらえたと思った彼は、そのまま別の仲間を呼びに走っていった。
残されたコウは、唖然とした表情でそれを見上げている。
そんな彼女の隣に、先に到着していたらしいティルが立つ。
「…凄いよね」
「……ええ、そうね」
「何と言うか…発想が、独創的だと思うよ、これは」
「これは…見方を変えれば、確かに芸術かもしれないけれど………何と言うか、凄いわね」
これを凄いと思える彼が凄いと思う。
そして…あらゆる意味で、凄いとしか言い様のない、それ。
頭、胴体、足、手と、それぞれが別々の生き物から出来ている。
そこに広がるのは、無秩序としか言えない光景だ。
これら全てのパーツを紡ぎ合わせるように作ったジュドの腕は、正直、賞賛に値すると思う。
「…これを機に、芸術方面に目覚めなければいいけれど…」
「いや、それは…うん。個人の自由なんだよ、きっと。
世の中には万人受けする芸術家と、一部の者にだけ受ける芸術家がいるからね」
リオウが後者だと言うことは、言うまでもないことだろう。
ドラゴンの胴体にあわせるために巨大化した兎の頭に見下ろされながら、二人はリオウの独創的な美的センスに覇気のない言葉を紡ぎ合った。
2主&1主 / 水面にたゆたう波紋