089.ごめんね。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。本当にごめんなさいっ」
「謝るな」
「だって…!る、流川に…!流川にお姫様抱っこさせるなんて…!」

真っ赤な顔を手で覆いつつ、悲鳴にも似た声を上げる。
同じく真っ赤に腫れた彼女の足には、氷嚢が乗せられていた。
ベッドに腰掛ける彼女の前で、流川は呆れたような顔を見せている。
先ほどから半時間ほど、同じことばかりを繰り返す彼女を前にすれば仕方のないことだ。

「いい加減黙れ」
「だってー…恥ずかしくて死ぬ…」

あぁ、これが本音か。
何となくそう思った流川は、短く溜め息を吐き出した。
申し訳ないと言う思いもあるのだろうけれど、何より恥ずかしいと言う思いが先立っている。
彼としては、別にお姫様抱っこだろうが、俵担ぎだろうがどうでもいい。
それより―――と、彼は彼女の足を見た。

「痛みは?」
「あ、えっと…だいぶマシになったみたい」

足を動かした拍子に、氷嚢がころり、と中の氷の音を立ててシーツの上に落ちた。
それを拾おうとした彼女の手よりも先に、大きな手がそれを攫う。
再び冷たいそれが赤くなっている足首に乗せられた。

「それにしても…あそこでボール籠が倒れて来るとは…予想外だったわ」
「どあほう。180以上の身体がぶつかれば籠くらい倒れて来るだろうが」
「うーん…まぁ、それはそうなんだけど…下敷きになるほど運動不足だとは思わなかった」

そこに軽くショックを受けているらしい彼女に、流川は再び溜め息を吐き出す。
気にすべきところはそこじゃないだろうと思うのだが。

「大丈夫なのか?」
「え?」
「足」
「あぁ…多分ね。打撲程度で、折れたりはしてないと思うよ」

動かせるし、と動かしてみせる彼女。
見ている限りでは、確かに折れている様子はない。
しかし、それを鵜呑みにしていいのだろうかと悩む流川。
一方、そんな風に悩む彼を見るのは珍しいな、と暢気なことを考えている彼女。

「ごめんね。心配…させた?」

申し訳なさそうに眉尻を下げ、そう問いかけると返って来るのは無言。
この沈黙は…恐らく、肯定の沈黙だ。
長い付き合いから、そう感じた。

「…お前、謝ってばっか」
「そう…かな。…うん、そうだね。ごめん」

何か、色々申し訳なくて。
そう言って苦笑いを浮かべる彼女に、流川はふと視線を逸らして言った。

「謝るくらいなら笑え」

少しばかり頬を赤らめての言葉に、きょとんと目を見開く。

「…うん。ごめんね」

彼女はそう言って、満面の笑顔を浮かべた。

流川 楓 / 君と歩いた軌跡

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08.09.18