088.鍵をかけて
「邪魔するぜ」
ガラッと躊躇いなく開かれる戸。
そちらに視線を向ける気力すらなく、枕に顔を埋める。
「朝っぱらから何へばってやがる」
「…鍵、してたはずだけど」
「ねェよ、鍵なんてな」
あぁ、また壊したのか。
そう言えば、ガラッと言う音の前に何か金属音がしていたなと思い出す。
「この時期になるといつも篭城しやがるな、てめー。ちったー動いて気でも紛らわせ」
「…この身の半分はアンタとは作りが違うんでね」
一年の内の、たった一週間なのだから勘弁して欲しい。
本音を言えば、この会話すら億劫なのだ。
早く帰ってくれ、と言う思いだけを一生懸命送りつつ、そのままの姿勢を保つ。
しかし、望みに反して近づいてくる足音。
「…飯は」
「…要らない」
「食え。ただでさえ細い癖に、断食すんじゃねぇ」
「…頼むから、帰ってくれないか…」
本気で辛いんだ。
そう呟いたところで、意識が遠のく。
眠りにも近いそれに誘われ、完全に沈む直前。
ふわりと髪を撫でられる感覚を覚えたけれど、意識はそのまま沈み込んだ。
―――この時期が終わったら鍵を直さないと。
あぁ、でも…どうせ壊す人がいるなら、このままでもいいか…。
まとまらない考えが意識の浅いところを彷徨い、やがて柔らかく溶け込んでいく。
ゆっくり、ゆっくりと髪を梳く優しいあたたかさに身を委ね、そっと意識に蓋をした。
高杉 晋助 / 朱の舞姫