084.フェンスの向こう

「へぇ…このフェンスが噂の」

すでに金網の塞がれたフェンスを見つめ、そう呟く。
その声は、様々な感情が含まれているように聞こえた。
誰も居ない、夜。
こんな時間に出歩くものではないけれど、隣を歩く男は悪魔の異名を持つ者だ。
痴漢も不審者も、彼の前にはなす術なく頭を垂れるだろう。
と言うよりも、明らかに銃刀法を違反している男に近寄る人間がいたら、それはただの馬鹿でしかない。

「直っちゃってるんだね、金網」
「当たり前だろ」
「まぁ、ね」

規則的に編みこまれた網に手をかけ、小さく微笑む。
ここが、蛭魔の原点となる場所。
そう思うと、ここが少しだけ…不思議な場所に見えた。

「知ってたけど、見るのは初めてだね」

彼とはもう長い付き合いだ。
僅かながら、栗田よりも長い。
けれど、この場所に来たのは、これが初めて。
彼との出会いは、もっと違った…ごく普通の場所だったから。

「小学生の蛭魔とか、想像できないなぁ」

始まりが小学生の頃だということは聞いている。
彼自身が語ったわけではなく、基地の人から聞いて栗田によって、その事実を知った。
この金髪の悪魔が小学生…想像しようと思うと、頭が痛くなる。

「…どうして、連れて来てくれる気になったの?」

高いフェンスを見上げながら、そう問いかける。
彼女のように何かを思うでもなく、ただそれを見ている彼。
暗くて見えないフェンスの向こう側に、彼は何を見たのだろうか。

「テメーが連れてけって言ったんだろーが」

そう答える彼。
すでにこの場所への興味は失われているとばかりに、これと言った感情を見せない表情だ。

「言ったっけ?」
「1570日前にな」
「4年110日前?そんなの、よく覚えてたね。第一、そんなに強く願い出た覚えはないけど」

即座に年数を導き出す彼女に、蛭魔は軽く鼻を鳴らした。
それから、フェンスへと背を向けて暗闇へと歩き出す。

「置いてくぞ」
「あ、うん」

彼女の歩幅などお構いなしに、自分のペースで進んでいく彼に追いつく。
隣に並んだ所でもう一度あのフェンスを振り向いた。

少しだけ、彼の過去に触れた気がした。

蛭魔 妖一 / ペチュニア

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08.11.27