082.鎖
鎖に囚われている。
彼女は、鎖に囚われていると、誰かが言った。
その噂を聞いた彼女は、ただ一笑しただけだった。
「否定はせぇへんの?」
噂を耳にした市丸が、そう尋ねた。
彼女は何故?と言った表情で首を傾げる。
「否定するような気がしたんやけどなぁ。噂の出所、気にならん?」
「噂の出所がどこであれ、私には関係ないわ」
「そうなん?予想外やわ」
そう言って、彼は楽しげに笑う。
いや、楽しげなのは表情だけで、実際に笑っているのかどうかは彼女にもわかりかねる。
「他人が立てた噂に興味はないの」
「相変わらずやな。でも、強ち外れてへん気がするわ」
「…いいえ、あの噂は、当たっていないわよ」
彼ではない別の場所を見て、彼女はそう言った。
「惣右介さんは…私を鎖で縛り付けたりはしないもの。あの人は、自由を許すことで私を縛る」
許されているのに、気が付けば彼の所に帰ってきている。
繰り返しているうちに、それが自然なことだと思うようになった。
それが、事実であり真実だ。
「目に見えるものも、見えないものも…あの人には、必要ない。あの人そのものが、私を縛る理由になるのだから」
だから、自分には鎖などないのだと。
彼女は静かにそう告げた。
そんな彼女を見ながら、市丸は思う。
「十分囚われとるなぁ。藍染さん、っちゅー鎖に」
「…そこは、否定は出来ないでしょうね」
「それでええの?」
問いかけに、造られた空を仰ぐ彼女。
「それ以外の生き方は忘れた。それに…私は、彼の隣で生きると決めたの」
それが、彼女なりの答えだったのだろう。
藍染 惣右介 / 逃げ水