081.完璧なんて。

膨大な資料に埋もれる科学班のメンバー。
湯立つコーヒーを載せたトレイを手に、リナリーが溜め息を吐き出す。
今にも倒れてしまいそうなほどに疲労を蓄積しているのは、火を見るよりも明らかだ。

「少しは休んで欲しいのに…」
「リナリー、一つもらえるかしら?」
「あ、うん」

呟く声に答えるかのようなタイミングで、コウが顔を出す。
リナリーはカップを受け取った彼女を呼び止めた。

「リーバーさんも無理してる?大丈夫?」
「あの人なら大丈夫よ。一応、ね」
「そ、か…。大変なんだよね」

エクソシストである自分は、こう言う時には何も出来ない。
こうしてコーヒーを用意し、頑張って、と励ますことくらいしか出来ないのだ。
そんな自分の無力さを感じる時―――決まって、コウの事を羨ましく思う。
彼女は科学班ではないけれど、彼らの手伝いが出来るから。
コウにはリナリーの考えなど、お見通しなのだろう。
苦笑を浮かべた彼女はカップを持たない方の手でリナリーの頭を撫でた。

「私はあなたが…エクソシストが羨ましいわよ」
「え?」
「だって、彼の頭の中は、あなた達のことばかり」

エクソシストが死線へと旅立つ際に、またここへと帰ってこられるように。
彼らは、日々自身の睡眠時間を費やしてまで、彼らを守る為に頑張っている。
一日の大半をエクソシストの事を考えて過ごしているのだから、コウの言葉は強ち間違っていない。

「コーヒー、ありがとうね。彼に代わって礼を言っておくわ」

最後とばかりにぽんと髪をなで、その手を振りながら部屋を出て行く。
隣の部屋で同じく膨大な資料の処理に追われているリーバーの元に向かったのだろう。





「コーヒーを貰ってきたわ」
「おー。サンキュ…」
「お礼ならリナリーに」
「伝えてる暇がない」
「…だろうと思って、伝えてきたから」

顔をあげている間も惜しい。
そう言わんばかりに、一瞬だけ絡んだ視線が逃げていく。
今に始まったことではない、と自分を諌め、彼の手の届くところにそれを置いた。

「どこか詰まっているの?」
「耐久性に問題点が、な。防御力を高めると、どうも生地が傷む」
「…完璧なものなんて望めないものよ」
「完璧を目指してるんじゃない。少しでもエクソシストの安全が高まれば、それでいいんだ」

迷いなく答える彼に、コウは苦笑を零す。
何故、必要としたのが彼だったのだろうか。
そんなことを考えたのは一度や二度ではない。
けれど、離れようという結論に達したのは、ただの一度もない。
理由も何もなく、自分に必要なのは彼だった―――ただ、それだけ。

「完璧じゃないから…ないものねだりをしてしまうんでしょうね」

自分も、リナリーも、科学班たちも。
完全ではないからこそ、それを補えるものを求めてしまう。
本能的なものであり、それが嫉妬となり、羨望となるのだ。

「コウ」
「…なぁに?」
「悪いな、ほったらかして」

こうして顔を向けても横顔しか見えないけれど。
真剣な目は無機質な文字の並ぶ紙へと向けられたままだけれど。
それでも、自分の存在は彼の意識の中にある。

「…十分よ」

全てを望んだりはしないから、少しだけ与えてくれるならば。
コウが微笑んだのがわかったのか、リーバーは視線を向けることなく苦笑を浮かべた。

リーバー・ウェンハム / 鎮魂歌

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08.11.09