070.音

「姉さんってさ。暗殺もやってんのに、足音を立てて歩くんだな」

ふと、思い出したようにキルアがそう言った。
カツン、とブーツのヒールが音を立てる。
確かに、その通りだ。
彼女は自分自身の足元を見下ろした。
足音を立てずに歩くことなど彼女には造作もないことだ。
しかし、彼女はあえて足音を立てるようにして歩いている。

「そうね」
「暗殺の意味なくね?」
「そうとも言い切れないわよ?」

くすり、と笑ってから、彼女はキルアの方へと歩いてくる。
カツン、カツンと足音が響く。
自然と音に意識を奪われたキルアの首元に温かい息が吹きかけられた。

「!!?」

驚いたようにそちらを見たキルアは、それと同時に壁際へと飛びのく。
先ほどまでキルアが居た位置に、とん、とスノウが下り立った。

「人間はどれだけ鍛えても、自然と音を拾ってしまう聴覚は捨てられない。
だからこそ、そちらに意識を向けることができれば…一瞬で片は付くでしょう?」

相棒の力を信じていて、自分の力を過信していない。
だからこそ出来る策だ。
どちらの能力が足りていなくても、成功しないのだから。
その結論に達すると同時に、キルアは彼女らしい、と思った。
人と同じようには扱わないけれど、人と同じように大切にしている。
だからこそ、彼らもその最大限の力で彼女を補佐するのだ。
そこにある確かな絆は、誰にも邪魔できるものではない。

「こいつらもひっくるめて姉さん、って感じだもんな」

腕を頭の後ろにやって笑う彼に、彼女も笑う。

「そう言ってくれるからキルアが大好きよ」

動物だと思って馬鹿にしないから、好意的に見ることが出来る。
尤も、この家の人間は皆、彼女の相棒の実力を知っていて、決して侮ったりはしないけれど。

「なぁ、その靴でも足音を消せる?」
「誰に向かって聞いてるのかしら?」
「…だよな」

キルア=ゾルディック / Free

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08.12.29