063.青空雨空

「雨…止まないね」

ベランダの窓から空を仰ぎ、そう呟く。
部屋の中に置かれたソファーには、当然のことのように流川が腰を下ろしていた。
彼の耳にはイヤホンが付けられていて、呟きが聞こえているのかはわからない。
ただでさえ口数の少ない彼は、ご機嫌が芳しくない時は貝の如く沈黙を貫く。
機嫌の悪さをだんまりで表現する彼に、小学生との類似点を見つけてしまうのも無理はない。

「折角来たのに…残念」

これは、彼女の意見ではない。
朝から練習のためにと彼女のマンションまで自転車を漕いできた彼の心を代弁したのだ。
マンションに着くまでは晴れていたのに、いざ、とゴールと向き合った途端に天気は雨。
しかも、この程度なら…と思えるほどの小雨ではなく、大降りだ。
濡れ鼠と化した流川は、雨に気付いた彼女によって部屋へと引っ張られた。
そして問答無用で浴室へと放り込まれ、シャワー後の為の服に着替えて今に至る。
しとしとと雨の音を聞きながら、食卓の準備をした。
いつもは軽い練習後の朝食は、少し予定を早めている。

「流川ー。朝ごはんにしようか」

ソファーの主となっている彼に声をかける。
聞こえないかと思ったけれど、予想に反して彼はすぐに立ち上がった。
向かい合って座ると、彼女の位置からはベランダが見える。

「雨、止まないね」

先ほどと同じことを言った。
彼はちらりとベランダを横目に見る。

「…偶にはゆっくりするのも悪くない」

そう答えると、彼は律儀にも手を合わせてから朝食に手を付ける。
まるで、こうしている時間を悪くないと言っているように聞こえた。
少しだけ嬉しくなって、はにかむように笑ってから、それを誤魔化すように珈琲を飲む。

そんな、とある雨の日の朝の光景。

流川 楓 / 君と歩いた軌跡

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08.08.18