062.目眩
出会って、一目見てその人を愛するなんて―――
そんな、御伽噺みたいなことは、ありえないと思っていた。
けれど…私は、愛してしまった。
一目見て、目眩にも似た何かが、私の感覚を狂わせたのかもしれない。
気の迷いなのだと言われれば、否定は出来ても相手を納得させる論述は持ち合わせていない。
それでも、その心を偽るくらいならば、命なんていくらでも捨てられる。
あの一瞬で、そう思えるほどの想いだった。
敵だったはずの千年伯爵は、元エクソシストである私を見ても、表情を崩すことはなかった。
いつかと変わらぬ笑みを模る口から発せられたのは、ようこそ、と言う歓迎。
「ティキぽんの大事なお客サマは歓迎しますヨ」
そう言って黒い蝶の宿る手を取った彼は、酷く紳士的だった。
今まで、見えていなかったものを見ている。
「千年公は、エクソシストを嫌っていないの?」
「さぁ。少なくとも、お前は歓迎されてるよ」
安心して、と髪を撫でられる。
優しい手のぬくもりが頬へと滑り込んで、その体温に彼が人なのだと改めて気付かされた。
―――もう、神を想う必要はない。
失ったと言う感情はなかった。
寧ろ、解放されたと言う安心感がこみ上げ、涙として零れ落ちたのを覚えている。
それに苦笑したティキは、何も言わずそれを指先で拭ってくれた。
「だから、神への愛は過去のものにして…ここから先は、俺にくれよ。ちゃんと、生身で愛するから」
エクソシストと言うフィルターを通さぬ世界は、こんなにも色彩に溢れていたのか。
飛び込んでくる様々な情報に、目眩がした。
ティキ・ミック / 砂時計