059.欲しいんだ。

不思議なものだ。
他人など、己の道を進むための道具でしかない。
強すぎる虚すらも従える自分にとって、微温湯で過ごす尸魂界は、正しくその対象であった。
しかし、その中に見つけたもの。

ふわりと微笑んだその笑顔に違和感を覚えたのが、全ての始まりだった。
ハッとするほどに穏やかに微笑んでいると言うのに、目の奥に別の感情が見えたのだ。
それは、諦めにも…嘲りにも見えた。

それからと言うもの、気がつけば彼女を視界に捉える日々が続く。
注意して視線を向けるようになれば、その綻びはより鮮明なものとなった。
―――自分を偽っている。
そう悟るのに、時間は必要なかった。

「…深く知るには、入り込む他はない…か」

彼女の家をどれだけ洗おうと、望む情報は得られなかった。
しかし、直感的な何かが、そこに彼女の行動の意味が隠されていると告げている。
王族の管轄に足を踏み入れることに対しても、迷いはなかった。
それほどに、彼女の存在の追及は、自分にとっては興味深いものとなっていたのだ。



「これは…」

漸く辿り着いた先に見えた真実。
自分の想像を上回る存在が、彼女の内に潜んでいるというのか。
ゾクリ、と背筋が粟立つ。

ただ純粋に―――彼女の力を欲した瞬間だった。





「惣右介…さん?」

眠っていたはずの彼女が瞼を開く。
髪を撫でられる感覚に、目を覚ましてしまったのだろう。
ゆるゆるとシーツの上を滑った彼女の手を拾い上げた。
手を繋ぐようにして、その甲に唇を触れさせる。

「目が覚めたかい?」
「ええ。…どうしたの?」
「いや…。竜王のご機嫌は如何かな」

軽く目を見開いてから瞬きをして、彼女はフッと表情を緩める。

「悪くはないみたいよ」
「それは良かった」
「どうして?」
「少し霊圧が乱れているからね。竜王の機嫌が芳しくないのかと心配しただけだ」

自分の言葉に、そうなのだろうかと首を傾げる彼女。
疲れているからね、と答えてから、シーツからはみ出ていた肩を隠す。

「もう少し休むといい」
「…ん」

瞼へと手を載せれば、彼女は素直にそれに従った。
やがて、小さな寝息が聞こえ出す。

「私が全てを欲するとは…君は、本当に不思議な死神だ」

手中に収めてしまえば、きっと興味を失うと思っていた。
けれど、今も尚、彼女を手放そうとは思わない。
寧ろ…自分のすぐ傍に繋ぎとめておきたいと思う。

己の計画に不必要な存在である彼女を欲しているのは確かだった。

藍染 惣右介 / 逃げ水

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08.10.16