054.アイスの季節
燦々と降り注ぐ太陽は、例に洩れることなく体育館の屋根を焼く。
お蔭で室内温度は上昇の一途を辿り、部活中の学生を苦しめていた。
熱中症で倒れる者が続出する中、監督である安西は、ふむ、と顎を撫でる。
「雪耶さん」
そう大きくはない声だったけれど、彼の声に顔を上げる紅。
マネージャーと部員の運動量は同じではない。
しかしながら、彼らをサポートしようと思えば、必然的に運動量が増える。
紅の頬を汗が伝った。
「これを」
そう言って手渡されたのは、一枚のお札。
描かれている人物画は福沢諭吉―――つまり、一万円札だ。
「お釣りが出ないくらいに買い込んできてください」
「ジュースですか?」
「…それは、君に任せますよ。部員のやる気が出るものなら、何でも良い」
彼にそう言われ、紅はそれを受け取りながら何を買おうかと悩む。
ふと視界に入った体育館の窓越しに、学校の外を走る子供の姿が見えた。
麦藁帽子を被った子供が数人、手にそれを持って走っていく。
あれにしよう、と決める。
「行って来ます」
「紅、荷物が大変でしょうから、一人連れて行きなさいよ」
隣で話を聞いていた彩子が紅を呼び止める。
そして、彼女が何かを答える前に、交代でコートを出た流川を呼びつけた。
「買い物に行って来て。紅と一緒に」
「…ッス」
買い物、と聞かされた時には僅かに眉を吊り上げた流川。
しかし、最後まで話しを聞いた彼は、コクリと頷いた。
彩子は彼のあまりに素直な反応に、思わず心中でいやらしい笑みを浮かべてしまう。
そんな感情を押し隠し、頼んだわよ、と彼の肩を叩いた。
「行くぞ」
「あ、うん」
汗を拭いていたタオルを自分の荷物の所に放り投げ、歩き出す。
そんな彼に呼ばれ、紅は慌ててその背中に続いた。
「どこに行くんだ?」
「えっと…スーパー。一箇所で全部買えるかが不安だけど」
「…何を買うんだよ」
「アイス。一万円も貰っちゃったから、結構買えるね。
一つ120円として…83個?………持てるかな。一人40個かー…」
「10個でいい」
「え?それは駄目でしょ。70個も持たせられない」
「トレーニングになる」
「駄目」
「………………………」
「だ、駄目だからね!そんな顔をしたって…!」
「………………………」
「………………………っ」
「………………………」
「…………わかったわよ。20個。それ以上は妥協しない」
「チッ」
「舌打ちしない!」
流川 楓 / 君と歩いた軌跡