053.うるさいな。
無言の彼女に、クロロは深く溜め息を吐き出した。
そして、それ以上は言う必要はないだろうと、手元の本に視線を戻す。
そんな彼を一瞥することもなく、彼女は目の前を見つめた。
「…スノウ…」
申し訳なさで眉どころか、テンションまでもが右下がりだ。
彼女の前にちょこんと座るスノウは、それはそれは可愛らしい…可愛らしすぎる洋服を着せられ、耳元の毛にはリボンを付けられていた。
「だから言ったんだ。信用できないとな」
「…………………」
「念も知らん人間が会話をするなんて…怪しいことこの上なかっただろ」
「…………………」
「まったく…人の忠告を聞かないから、こうなるんだ」
「うるさいなぁ、ちょっと黙ってよ!わかってるわよ、もう!
まさか…仮にもプロを名乗る人間がここまでセンス皆無だとは思わないじゃない!」
八つ当たりだとわかっているけれど、そうせずには居られない。
クロロからの辛辣な言葉の数々に、彼女は唇を尖らせた。
そして、悲惨なセンスで飾られているスノウを抱きしめる。
「ごめんね、スノウ…」
スノウは落ち込んだ様子でそう謝罪を繰り返す彼女の頬を、ぺろりと舐めた。
彼女がプロ…トリマーにスノウを預けたのは、草むらに下りてしまったスノウに大量の草の実がついてしまったからだ。
白銀の毛並みにしっかりと絡みついたそれは素人の手に負えるものではなかった。
どうしようかと思ったところで偶然その看板が目に留まり、とりあえずとドアを開いたのが始まり。
元の毛並みに戻してくれるだけで良かったのに、「素晴らしい毛並みのわんちゃんへのサービスです」とこんな服を着せられてしまった。
その衝撃は凄かった。
いつの間にか金を支払い、家に戻ってきてしまう程度と言えば、その凄さは伝わるだろうか。
とりあえず毛に草の実は残っておらず料金分の働きは得られているのは、不幸中の幸いだろうか。
「ごめんねー…」
ぎゅっとスノウを抱き締めて落ち込んでいる彼女の背中を見ながら、クロロは思う。
「(さっさと脱がせてリボンも外せば済む筈なんだが…)」
そんな簡単なことに気付かなくなるほどに、スノウの格好は衝撃的だったということなのだろう。
暫くは気付きそうにない彼女の様子に、クロロは肩を竦めた。
教えない所を見る限り、少しは楽しんでいるという事は否めないだろう。
クロロ=ルシルフル / Free