051.新しい

何やら船の中が騒がしい。
喧しくしているのはどこのどいつだ、と苛立ちを含ませた足取りでそちらへと向かう高杉。
開きっぱなしになっている入り口から中を見ると、騒ぎの中に鬼兵隊には少ない女性の背中が見えた。
一目見て、その背中が高杉が己の次に信頼を置く人物のものだと悟る。
彼は迷いなくその名を呼んだ。

「晋助?」

呼ばれた彼女は、少し驚いたように振り向く。
静寂を好む彼がここに来るとは思っていなかったのだろう。
彼女が振り向いたお蔭で、騒ぎの原因が見えた。

「あいつら何やってんだ?」
「えっと…昨日の買出しで新作の着物を買ってきて、誰のを着せるかを悩んでいるみたい」

主に騒ぎ立てているのは来島と武市のようだが、静かながらそれに参戦する河上の姿も見受けられる。
しかし…来島の持っているものは、まぁ納得できるのだが、他の二人はどうだ。

「どいつも女物じゃねぇか」
「そのようで」

疲れた様子で溜め息を吐き出す彼女を見て、何となく状況が掴めて来た。
さほど騒がしいことが好きではない彼女がここにいるのは、恐らく事の一端を担う人間だからだ。
早い話が、彼女に着せようと騒ぎ立てているのだろう。
そう言えば、以前来島がこう愚痴を零していた。

「姐さんは、絶対着物が似合うんスよ。晋助様もそう思いません?
似合うに決まってるに、いつも袴ばっかりで…そりゃ、動きやすいけど、勿体無いっス」


いつか絶対!と意気込んでいた思いが、実現されようとしていると言った所か。
状況を理解した高杉は、呆れたように煙管を銜え直した。

「おい」
「はい?」
「来島のアレはどう思う?」
「…もう少し丈が長ければ、嫌いじゃない」
「そうか」

あえて来島の持っているものに限定されていたのは、後のものが見るに耐えない部類だったからだろう。
興味を失ったようにくるりと踵を返した高杉は、思い出したように足を止めた。

「着替えて来い」
「え?」
「どうせ、来島に流されて一枚くらいは買ってんだろ。着替えたら部屋に来い」

言い終わるが早いか、彼はさっさとその場を立ち去った。
残された彼女は彼の背中を見送ってから、軽く苦笑いを浮かべる。

「お見通し、か」

今更気恥ずかしくて袖を通していなかったのだが、命令口調で言われれば仕方あるまい。
覚悟を決めて、真新しいそれに着替える他はないのだろう。
部屋の中の喧騒に背を向けて、自室へと歩き出した。

高杉晋助 / 朱の舞姫

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08.12.12