043.青の薔薇
「紅。手が空いてるなら少し来てくれないか?」
庭から声が聞こえ、縁側で本を読んでいた紅が顔を上げる。
読書は手がふさがっていると言うことにはなるまい。
迷いなく本を置いた彼女は、蔵馬の声のする方へと歩き出した。
「―――蔵馬?どこに居るの?」
「こっち」
声に引き寄せられた先にあったのは、20畳ほど花園。
きちんと整えられたそこは、正しく園と呼ぶに相応しい。
その様子を見た紅は、きょとんと目を見開いた。
「いつの間に…」
「一昨日に、幻海師範に許可をもらってね。昨日完成したばかりなんだが」
そう言って苗を見せる彼に、一日で成長するはずがないだろうと思う。
しかし、それを言葉に出す必要はない。
彼は、植物を操ることが出来るのだから、その常識は無意味なのだ。
ひっそりと蕾を付けているそれは、紅にとっても馴染み深い花。
「薔薇ね」
「正解」
そう言って微笑んだ蔵馬が蕾をそっと撫でる。
少しばかり、その蕾が膨らんだように見えた。
「でも、どうしたの?」
尤もな問いかけに、蔵馬は紅へと近づいてくる。
「この薔薇は紅のものだ」
「え?」
「薔薇が咲いたら、紅に伝えたい言葉がある」
聞いてくれる?と微笑み、彼女の手を取る。
優しく包み込まれる手を見つめてから、もちろん、と頷いた。
「何を伝えてくれるのか…楽しみにしてるわ」
「あぁ。あと三日ほど…かな」
「そう。咲いたら、大切にするわね」
微笑を返す彼女に、静かに頷く。
予告通りの三日後。
蕾が静かに花開き、青い薔薇が美しく咲いた。
青い薔薇の花言葉は、「神の祝福」
蔵馬が紅に伝えた言葉は、彼女だけが知っている。
南野 秀一 / 悠久に馳せる想い