038.テストの前に

「皆、必死だねぇ」

どこか他人事のようにそんな事を呟く。
隣の席に座っている一護にだけ聞こえる程度の声に、彼は静かな視線を向けてきた。

「余裕だな、お前は」
「一護も、でしょ」
「お前と違って、一応テキストは開いてんだろーが」
「残念。テスト範囲じゃないよ、そこ」

先ほどから1ページも進まないそれを見ていれば、彼が勉強していないことなど明らかだ。
そこを指摘された一護は、無言でテキストを鞄に放り込む。

「一夜漬けならわかるんだけどさ。休憩時間の10分間の勉強って、意味ある?」
「…あるんじゃねぇの?」
「だってさ、その時に放り込んだ知識の所為で、テスト最中に変に悩まされたりしない?」
「…元から入れてある知識がなけりゃ悩む必要もねぇだろ」

…なるほど、一理あるかもしれない。
元々ゼロならば、増える事はあっても、変に減ってしまったりすることもない。
間違えて覚えていたとしても、解答を埋められるだけ、ゼロよりはマシ、と言うものだ。

「お前は勉強しなくていいのか?」
「私の成績は一護も知ってる通り。ちゃんと家で計画的な勉強をしてますから。
前に、休憩時間の勉強の所為でミスっちゃってね。それからはしないって決めてるの」

この休憩時間に賭けている者にとっては短い休み時間。
しかし、勉強する気のない者にとっては、暇をもてあます時間だ。
のんびりとくつろぎながら、シャーペンの芯を確認しておく。
隣の一護がふぁ、と大きなあくびをして、机と仲良くなった。

「…眠ぃ」
「あと5分ありますよ、一護さん」
「5分で寝れるかよ」
「…頑張ったら出来る、かも?」

少し笑いを含ませてそう言えば、出来るかよ、と言う返事。
尤もだな、と思いながら、シャーペンを筆箱に戻した。

「あ」
「ん?」
「あいつ、カンペ作りに勤しんでる」
「…そこは気づかなかったフリしてやれよ」
「いや、別に告げ口しようとはか思わないけど…。今頃?って感じではあるね」

次の教科は歴史。
残り5分で作る事ができるカンペ…カンニングペーパーなど、たかが知れている。
無意味な努力だなぁ、と肩を竦めた。

「ばれたらやばいのに。そっちの方が嫌だな、私は」
「呼び出しは面倒だからな」
「うん。正々堂々とやらないとね。中2の1学期末のテストで人生が変わるわけでもないしさー」
「…必死の連中からしたら反感モンのセリフだな」

聞きなれたチャイムの音に、足掻くクラスメイトの溜め息が重なった。

黒崎 一護 / Raison d'etre

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08.09.04