036.見かけたあのこ

おや、と思う。
見慣れた背中が中庭へと歩いていくのを見つけた。
慣れた足取りで向かう先はどこなのか。
他の誰のことも、こんな風に興味を惹かれたりはしない。
けれど、彼女のことだけは些細なことでも知りたいと思ってしまう。

前を歩いていく背中が気付かない程度の距離を開け、焦る素振りもなく追いかける。
城を出た彼女は、そのまま中庭の中を歩いた。
彼女を追いかけ、そっと城から中庭を覗く。

「こんにちは、ジークフリード」

日の光を浴びながら、白きユニコーンに微笑みかける彼女。
動物に好かれ、自身も動物を好いている彼女には、よく見られる光景だ。
そうしていると、ひゅーんと飛び降りてきたムササビが彼女の腕に張り付く。
驚いた様子ではあるけれど、彼女は嬉しそうに笑い声を上げた。
座れと言う様にぐいぐいと引っ張るムササビに、彼女は仕方ない、と言った様子で芝生に座る。
その隣に、ユニコーンが我が物顔で座りこんだ。
ムササビは落ち着いた彼女の膝の上でのんびりと日光浴をする。
数分間眺めている間に、いつの間にかその二匹だけではなくなった。
背中を木に預けるように座った彼女の両隣と膝、肩を占領されている。
流石に身動きがとれず、困った表情を浮かべる彼女。
それでも、その表情には優しさと情愛がこめられている。

彼女らしいな、そう思って、城の出口のところに凭れていた背中を離した。
彼女が、視界に入り込んだ僕に気付く。
ふわり、と柔らかく微笑み、ゆっくりと開かれる唇。
紡がれる名前が、静かに鼓膜を振るわせた。

1主 / 水面にたゆたう波紋

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08.08.22