030.諦めないで

「どう言う…事?」

電話の先から聞こえてきた内容に、リナリーが声を震わせた。

『もう一度言うよ。コウの、団服と…大量の血痕が見つかった』
「団服、と…」

―――ケッコン?

リナリーの声は、掠れてしまって相手に届く音量すら保つことができていなかった。
そんな彼女の様子を悟り、電話の向こうで唇を噛むコムイ。
しかし、たとえ心を鬼にしたとしても…伝えなければならないことはある。
リナリーが、コウを親友だと思っているから、尚更。

『ヘブラスカが言っていた。コウはもうエクソシストじゃない。彼女のイノセンスは…消滅した』
「消、滅…」

最早、言葉として発していたかどうかも危うい。
気を抜けば足元が崩れてしまうような感覚に陥ったリナリーは、その場にしゃがみ込んだ。

「兄さん…コウは…………」
『――――…』
「コウは、死んで…しまった、の…?」

聞きたくなかった。
しかし、聞かなければ立ち上がれなかった。
声どころか身体まで震えさせて、リナリーは兄に問いかける。

『………その可能性が、一番高いと考えている』

上に立つ者と言うのは、何と残酷なのだろう。
リナリーが望む可能性を踏み潰す言葉を、彼は静かに答えた。

『彼女のゴーレムだけが見つかっていないんだ。今、各地に出ているファインダーの皆にも気にしてもらってる』
「兄さん?」
『希望を捨てたわけじゃないよ』

可能性として受け入れなければならないことはある。
けれど、希望を失わなければならないわけではないのだ。
コムイの言葉に、彼女が声を詰まらせる。
零れ落ちた涙を見たわけではないけれど、泣いているのだとわかった。
ありがとう、と小さく告げられた声は、彼の耳に届いただろうか。



「…兄さん」
『なんだい、リナリー?』
「私、諦めない。絶対に…諦めないから」

たとえ1パーセントに満たない可能性だったとしても、それに賭けてみたい。
涙声で、けれども真っ直ぐ前を見つめる彼女の声に、そうだね、と呟いた。

リナリー 他 / 砂時計

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08.12.22