027.不動
「お断りします」
背筋をピンと伸ばし、澄んだ迷いのない声でそう答えた。
幾度となく繰り返されてきたやり取りに、冷めた思考を向ける。
「何度も申し上げておりますように、私はクロス元帥と同じ位置に並ぶつもりは毛頭ありません」
「そなたの申す条件も聞こうではないか?何が欲しい?」
「では、今と変わらぬ日常を。私にとって…クロス・マリアンが全てですから」
ニコリと微笑んだ彼女の表情に温度はない。
自覚していながらも、直すつもりはなかった。
二の句を告げなくなったらしい大元帥を前に、失礼します、と踵を返す。
不愉快な浮遊感も、彼の元へ辿り着くための道だと思えば耐えられた。
「また喧嘩してきたのか」
「失礼な。まだ喧嘩はしていませんよ」
「コムイの奴が嘆いてたぞ。素質はあるのに悪の手先にってな」
「悪って…あの人も、何を言ってるんだか…」
やや呆れた風にそう返すけれど、決して彼が嫌いと言うわけではない。
ただ、少しばかりあの優しさが苦しいだけ。
「…お前はいつまで俺の下にいるつもりだ?」
「駄目なんですか?」
「いや、構わねぇ」
「いつ…か。師匠はすでに私の中で不動の地位を築いてしまっていますからね…。
あなたが、私の世界から消えた時に、考えます」
ありえないでしょうけれど、と心の中で付け足しておいた。
きっと、彼を失った世界では生きていけないだろうから。
その時になって彼を追うことが出来るのかはわからないけれど。
「…変わった奴だな、お前も」
「師匠についていける人間ですから、仕方ありませんよ」
違いねぇ、と言って、少しだけ持ち上げられる唇。
…時々、その表情が好きなんだって、知っててやっているんじゃないかと思う。
クロス・マリアン / 羅針盤