023.悪戯
「――――――」
「い、イルミ…とりあえず、落ち着いて…ね?」
無言で見下ろす彼を必死に宥める。
何も言葉を発していないのだが、明らかに空気が冷たいのだ。
感情が見えない目と言われるけれど、彼女からすれば彼の目は十二分にその感情を映している。
非常に状況のまずい今としては、わからない方が良かったかもしれない。
怒っている感情など滅多に見られるものではなく、貴重なものではあるけれど。
「落ち着いてるよ、俺は」
「いや、あの…うん。落ち着いているように見えるだけで、実際は落ち着いていないと思うの」
あなたが思うほどにあなたは冷静じゃないわよ。
はっきりとそう告げたいのは山々だが、火に油を注ぐ結果になりかねない。
下手に下手に事を進めようとするのだが、彼女自身もそろそろ限界だ。
何が限界かと言うと―――
「そ、その髪型も…新鮮で悪くはないと思―――
ごめんなさい。似合わないわよね。似合わないから、睨まないで」
何とか褒めようと思ったけれど、これでは逆効果だ。
睨みつけられると同時に、肌を刺すような殺気が降り注いだ。
彼女でなければ、すでに意識を失っていてもおかしくはない。
寧ろ、それだけで殺せそうなほどの殺気だ。
「…あいつらは?」
「………あのね、イルミ…。子供の悪戯じゃない。…ね?」
今にも原因を締め上げそうな雰囲気のイルミに、彼女は彼の肩に手を添えて動きを止める。
その際に、彼の黒髪がふわりと揺れ、思わず視線を逸らした。
いつもは美しく艶やかなストレートの黒髪は、その髪質はそのままに、くるくると巻いている。
縦ロールと言うほどではないが、口が裂けてもストレートとは呼べない。
もちろん、寝癖ではない別の原因がある。
それは、他でもない二人の双子の息子達だ。
「一度、ちゃんとわからせた方が良さそうだね」
「いやいやいや。わからせた方がって…ナイフを片手に何を教えるつもり!?」
最早、肩に手を添えて、などと言う可愛らしいものではない。
彼を止めようと全身の力を奮い立たせている。
もちろん、イルミの方が力は上なのだから、じりじりと移動しているのだが。
「私がきちんと言い聞かせて謝らせるから!ね!?」
「―――――ちゃんと叱りなよ」
「わかってるわ。だから、今回は任せ―――」
イルミが力を抜いて、とりあえず一安心かと思ったところで、パシャッと言う音。
二人してそちらを振り向くと、ドアから顔を覗かせた双子がカメラを構えていた。
「「父さんの貴重な写真ゲット!!」」
言い逃げだ。
ステレオの如く綺麗に重なった声が遠ざかっていく。
振り向いていた彼女は、後ろから発せられる冷気に口元を引きつらせた。
「あ………謝りなさい、あんた達―――ッ!!!」
その叫びは、屋敷が半壊する音によって掻き消された。
イルミ=ゾルディック / Free