021.世界の何処かで

「家族はもう二度と会えないかもしれないけれど、寂しくはない?」

唐突な問いかけに顔を上げる。
表情に出ていたのだろう。
彼は苦笑を浮かべてから、質問の意味を告げた。

「僕の所為じゃないとは言え、この紋章に誘われた事は確かだろう?
突然世界から切り離されるのは、辛くないのかな…と思って」
「もちろん、辛いし…寂しいわ。でも、それはあなたも同じでしょう?」

すんなりとそう答えた彼女に、彼は目を瞬かせる。

「あなただって、会えないかもしれない。会えたとしても、敵としてかもしれない。
家族が何処か、ここではない世界で生きている私とは違うわ」

彼女にとって、自分が家族の傍に居ると言うことは、大した目的ではない。
病弱な身なれば、いずれどこかの国に嫁ぐことになっていたかもしれないのだ。
いつまでも家族を恋しがるほどに、彼女は幼い考えの持ち主ではない。

「私は、可愛い妹たちやお父様…国の皆が、平和に生きていてくれればいい。
そこに、私がいなくても…構わないと思うの。それだけで幸せよ」

確かめる術はないけれど、彼女たちは幸せになってくれると確信している。
きっと、自分の死も乗り越えてくれただろう。

「君は…強いな」
「あなたほどではないわ」
「はは。世界の何処かで生きていれば―――そんな風に優しいことは考えられない」

お互いに、譲れないものを抱えてしまったのだ。
物であったり、国であったり、想いであったり…人であったり。
それぞれ沢山のものを抱えて、ここに居る。

「あなたは優しいわ。私が故郷の世界を思い出すきっかけをくれているのでしょう?」
「…本当に…君には敵わないよ」

苦笑を零す彼に、ふふ、と笑う。
きっかけなしには思い出に浸ることの出来ない自分を気遣ってくれていたのだ。
心が彼に優しさに触れる。

「本音を言うと、あなたには…私の家族と会って欲しかったわ」
「何か言った?」
「いいえ、何も」

呟いた言葉を誤魔化すように、小さく微笑んだ。

1主 / 水面にたゆたう波紋

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08.10.30