020.堕ちてゆく
ふとした拍子に、まるでフラッシュバックのように流れる記憶。
いや、これをフラッシュバックと呼ぶのだろう。
今ここに生きていることが罪だと思わせる光景。
決して、忘れることの出来ないあの日の出来事。
闇夜の中で目を覚まし、乱れた呼吸に乗せて「ごめんなさい」と繰り返す。
忘れさせるものかとばかりに、心を絡め取る緋い眼。
いくつも、いくつも。
迫るそれが、私の心に一つ、二つと鎖を絡めていく。
いっそ、この心臓をナイフで貫こうかと思う時もある。
こんな風に生きていくなら、いっそ。
しかし、そう思った時―――決まって、それを止める人物が居る。
「…また、か?」
低い声は、それが寝起きであることを伝えていた。
私が飛び起きたことに気付かなかったはずはない。
ずっと起きていない振りをして、様子を見ていたのだろう。
そして、私の手がベッドサイドに置かれたナイフに伸びたその時、漸く口を開く。
いっそ私の前から刃物を取り去ってしまえば良いのに、と思うけれど、彼はそうしない。
私自身がそれを手放し、生きようとすることを望んでいるからなのだろうか。
「…寝ろ。余計なことを考えずにすむ」
彼はそう言って、一度は開いた目を閉じる。
いっそ…元凶である彼を殺せば、自由になれるだろうか。
そう思ったことも一度や二度ではない。
本当に、そのナイフの切っ先を彼の首へと添えたこともある。
しかし―――出来なかった。
指の力を緩めると、ナイフがカランと落ちる。
その音が響くと、代わりにとばかりに彼の手が私のそれを包む。
そして、もう片方の手が優しく髪を梳くのだ。
良くやった、と褒めるように。
そうして、ふと与えられる優しさに、今日も無様に生を繋いでしまう。
心に絡んだ鎖ごと、束縛して離さない蜘蛛の糸。
今日もまた一歩、蜘蛛の方へと堕ちていく。
クロロ=ルシルフル / Ice doll