017.唄
「―――、――――…」
ふと聞こえた声に、ルフィが顔を上げた。
寝転がっていた彼は、身体を起こして音の元を探す。
メインマストの上、見張り台の所で、黒い塊が動いた。
ゆったりとした動きで身を起こした彼女は、珍しく人の姿を取っている。
唇から零れ落ちる旋律がルフィの耳に届いた。
「――――、――――――…」
ルフィが自分を見ていることに気付いていないのか、彼女は小さな唄を口ずさむ。
喉の奥から発するような本格的ではない、穏やかなメロディ。
伴奏も何もなく、手伝うのは時折聞こえる波の音だけ。
船の揺れにあわせるように緩やかに、時に強く。
澄んだ歌声が青空に溶け込んでいく。
消えてしまうそれが、勿体無いと思う。
ずっとその場に留めておきたいと思うのに、空へと逃げてしまうそれ。
ルフィにしては珍しく、じっと口を閉じて彼女を見上げる。
「ルフィ、何やって―――」
偶々歩いてきたウソップが声をかけるも、その言葉は途中で止められた。
伸びてきたルフィの手が、彼の口を塞いだからだ。
しー!ともう片方の手の人差し指を唇の前に立ててそう言えば、コクコクと頷く彼。
口が解放されたところで、その理由を悟った。
「上手いだろ」
「あぁ。初めてじゃねぇか?」
「あんまり歌わねーんだ。すっげー貴重なんだぞ」
笑顔を浮かべるルフィに、ウソップがふとあることを思いつく。
急いで船室へと戻った彼は、数秒後にルフィの元へと帰って来た。
その手には、見覚えのある貝殻が握られている。
ウソップが何を言わんとしているのか。
それに気付いたルフィと、企んだウソップが顔を見合わせてニッと笑みを浮かべた。
その日から、ルフィの荷物の奥に、小さな音ダイアルが保管されるようになった。
ルフィ / Black Cat