013.六月の雨

しとしとと降り始めた雨を吸い、死覇装が僅かに重くなった。
魂魄だけの死神にも、雨は関係するのだと思うと、少しだけ不思議だ。
貴族の家に生まれた自分は、現世での生活を知らない。
義骸を体験したことはあるけれど、所詮はあれも生身の人間ではないのだ。
長く生きてきたが、人間と死神の境界線だけは、未だに理解できないで居る。

濡れた髪が頬へと張り付く。
死覇装はどんどん重みを増していた。
そんな雨の中、ふと視界を閉ざしていく。
耳に聞こえる音が、降り注ぐ冷たい水が。
自分の中の嫌な感情を、全て押し流してくれるような気がした。
遮るものなど何もない空にポツリと立ち尽くし、絶え間なく降り注ぐそれを全身で受け止める。

「―――何をしている」

突然後ろに生まれた気配。
振り向く間もなく声をかけられ、うっすらと目を開いた。
後ろに立つ人物の気配と声とが、彼女の中で一致する。
振り向くことは出来なかった。

「雨を…感じていただけです。…全てを流してくれるような気がして」
「―――帰るぞ。ルキアが案じている」

咎めるでもなく、無理やりに連れ帰るでもなく。
彼は彼女が自ら振り向き、付いてくるのを待たずに門を開いた。
ルキアの名前が出て、彼女は小さく息を吐き出す。
そして、時間をかけて振り向き、門で待つ彼の元へと歩み寄った。
門をくぐろうとした彼女の頬に、彼の手が伸びてくる。
殆ど濡れていない彼の手は、雨に体温を奪われた彼女の頬よりは温かい。
何を言うでもなく、彼はその手を引き、門を閉ざす。





「無謀は似合わぬ」
「…申し訳ありません」

瀞霊廷へと戻った彼は、彼女を見下ろしてそう言い落とした。
そして、彼女の頭からばさりと羽織をかぶせ、そのまま無言で立ち去る。
残された彼女の耳に、タタタ、と言う軽快な足音が近付いてきた。

「姉様!お帰りなさいませ!やっぱり、ずぶ濡れではありませんか!」

全身濡れている彼女に、ルキアは驚いたように彼女の手を引く。
風邪を引いてしまいます、と歩き出す彼女に手を引かれ、大人しくそれに従った。

「姉様には簡単な任務のはずなのに、中々帰ってこないので心配しました」
「―――そう。ごめん…なさいね」
「現世への許可を貰おうと思ったら、兄様が自分が行くと―――姉様?」
「……………」
「…失礼します。……熱があるじゃないですか!よ、四番隊っ」

ルキアが額に手を触れるのとほぼ同時に、膝から崩れ落ちる。
意識を失ってはいなかったけれど、ルキアの声は右から左へとすり抜けていた。
偶然通りかかった浮竹により四番隊へと運ばれる頃には、意識は殆どなかったに近い。

翌日には元気を取り戻した彼女は、当然ながらその時のルキアの言葉など覚えてはいなかった。

朽木 白哉 / 睡蓮

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08.12.01