011.恋愛ゲーム

幼馴染と言う関係は、これが中々厄介なものだ。
息をするように考えが読めることはメリット。
同様に考えを読まれてしまうことはデメリット。
友達よりは近くて、恋人よりは遠い距離。
恋愛小説のように順風満帆には進まず、テレビゲームのように思うようには動かない。
この関係は、足元を酷く不安定に思わせるものだ、
その癖に、その関係ばかりがしっかりと…強固なまでに形作られている。

「夕飯食べに来いって、母さんが」

カラリ、と言う窓ガラスの動く音の後に、翼の声がした。
何の連絡も躊躇いもなく、部屋の中に入ってくる彼に、心中で溜め息を吐く。
幼い頃からの付き合いだ。
今更と言えば今更なのだが…自分の中の女の子の部分は、それに納得してくれない。
そんな感情が顔に出たのだろう。
翼は、不思議そうに首を傾げた。

「何か問題でもあるの?」
「ううん。大丈夫。おばさんに伝えてくれる?」
「…わかったよ」

何かある、と言うことは伝わっても、何があるのかは伝わらない。
肝心な部分が曖昧になってしまう、この近すぎる関係が、時々苦しく思うのだ。

「一体どうしたわけ?」
「んーん。何もないから」
「嘘つき」

心外な、と思ったけれど、それを言葉に出すと、喧嘩になってしまう。
引くつもりはない様子の彼に、溜め息を一つ零してから宿題のノートを閉じた。

「人生がゲームみたいに自由に進めたらって、そう思っただけ」
「は?」
「馬鹿みたいでしょ?だから、言いたくなかったの」
「馬鹿って言うか…ゲームのどこが自由なわけ?
決められたストーリーを進んで、決められたラストを迎えて―――どこが、自由なの?」

翼の、少し呆れた風な言葉に、それもそうか、と思う。
一つではないかもしれないが、それでも数えられるだけの終わりしかない。
そこに無限の可能性はなく、どれか一つに向かって敷き詰められたレールを歩いているだけだ。
自由…ではないのかもしれない。

「それなら…現実の方がいい、のかな」
「当然。決められた終わりなんて、冗談じゃないよ」

はっきりとそう告げる彼に、翼らしいと思う。
真っ直ぐで自信家で、でもそれが納得できるだけの努力を怠らない人。
彼は、この関係をどう思っているのだろう。
これで満足…しているのだろうか。

「っと。母さんが結果を聞かせろって。出来たら呼ぶからね」
「うん。兄さんも一緒でいいのかな?」
「母さんはそのつもり。帰ったら、伝えといて」

わかったと頷けば、慣れた様子でベランダを飛び越える彼。
部屋の中に消えた背中を見送り、少しの不満を溜めた息と共に吐き出す。

「関係が変わってしまって、遠くなるのは嫌だけど…本当は、もっと近くにいたいの」

変化を望んでいないのに、それとは裏腹に近づきたいとも思う。
相反する感情が胸の内でぶつかり合うのは、気持ちの良いものではない。

「いっそ、この終わりが決まってるなら…楽になれるのかな」

彼のように、冗談じゃない、と言えない自分の弱さが悔しく思う。

関係が動き出すのは数ヶ月後。
彼女はまだ、その未来を知らない。

椎名 翼 / 夢追いのガーネット

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08.10.20