010.わたしのために

例えば信じられない話を聞いたとしても、出来るだけ「本当に?」とは言いたくない。
その人の言葉を疑っているようだから。
そう気をつけているはずなのに…この時ばかりは、その言葉が零れ落ちてしまった。

「本当?」

電話に向かって、そう呟く。
零れ落ちた言葉を拾う術はなく、相手にもその声が届いてしまった。
自分がそれを言わないようにしている事は、陸も知っている。
だからこそ、気を悪くさせたら、と思ったけれど、彼は「はは」と笑った。

『禁句を言うほど驚かせた?』
「ご、ごめん。つい…もちろん、疑ってるわけじゃないわ。ただ…」
『いいよ、全然気にしてない。寧ろ、それだけ驚いてくれたって証拠だろ?』

明るい声が聞こえ、言葉通りに全く気にしていないのだと悟り、ホッと安心する。
そして、心を落ち着かせてから、もう一度口を開いた。

「ねぇ…本当に、来週の土曜…休み、なの?」

確認するように問いかければ、うん、と短い肯定の返事が聞こえてきた。

『休みって言うか…うん』
「……?」
『まぁ、気にすることじゃないって。とにかく、休みだから。どっか出掛ける?』

言葉を濁した彼に、何となくわかってしまった。
休みなのではなく、休んでくれたのだろう。
その理由は、もちろん―――

「私の為に…休んでくれるの?貴重な練習時間なのに?」
『…貴重だけどさ、その日だけは、もっと大事だろ?』

きっと、顔を合わせていたならば…はにかむような笑顔を見ることが出来たのだろう。
出来るならば気付かれたくないことに気付かれ、少し困ったような笑顔かもしれない。
今の会話が電話越しだということが、とても悔やまれた。

「ありがとう…陸。…嬉しい」
『俺がそうしたかっただけだから、気にすんなよ。電話だけより、ちゃんと祝いたかったし』

それより、と彼は話題を変えるように声のトーンに変化をつけた。

『どっか出掛ける?それとも、家でゆっくり………あ、ごめん。
予定は?聞くのはそっちが先だよな』
「空いてる!…家でメールか電話を待つつもりだったから」
『そっか、良かった』
「えっと……ごめん。すぐには決められそうにないんだけど…」
『あぁ、いいよ。まだ1週間あるしさ。遠出じゃなかったら、その間に聞かせてくれればいいし』
「うん。そうさせてもらうね」
『…でさ、プレゼント…何がいい?希望があるなら教えて欲しいんだけど』
「………何も、って言ったら困るのよね?」
『うん。何もって言われるなら、自分で考えるよ』
「じゃあ…考えて?陸が、私が欲しいと思うものを」
『…難しいな。希望に添えないかもしれないけど』
「いいの。大事なのは“私の為に”陸が考えてくれることだから」
『…了解。無い知恵絞ってやってみる。助言を求めるのは?』
「いいよ。陸の好きにして」
『じゃあ、キッドさんに頼んでみるよ』
「ん。楽しみにしてる。当日の事は…また、電話するね?」
『あぁ。待ってるから、よろしく』
「うん。じゃあ…明日に響くといけないし…もう寝て?」
『そうするよ。…おやすみ』
「おやすみなさい」

甲斐谷陸 / 向日葵

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08.12.20