007.最後の春
「3年になっちゃったね」
桜の散る道を歩き、そう呟く彼女。
ふわりと落ちてきた花びらが彼女の髪をなでてどこかへと飛んでいく。
「そうだね」
「…あのメンバーと一緒にサッカーが出来るのも…今年で最後、かぁ」
寂しいなぁ、と呟く。
春は毎年訪れるし、サッカーはどこでも出来る。
けれど、あのメンバーと共にフィールドを走るのは、中学3年の今年が最後だ。
まだ今年は始まったばかりだと言うのに、もう別れのことを考えている彼女。
考えがわからなくはないけれど、少し早すぎるだろう、とも思う。
「桜が、別れを思わせる。何で今年に限って入学式の時期まで咲いてるかな…」
好きな花だと聞いた覚えはある。
けれど、今の彼女はまるでそれが親の仇であるかのような目でそれを見つめていた。
その目の奥に見える寂しさの感情を見つけ、小さく溜め息を吐き出す。
「桜を睨んだって、来年は来るよ」
「わかってるよ」
「だから…今年は、何としても勝ち上がる。その為にはマネージャーにもしっかりしてもらわないと」
翼の言葉に彼女の視線が桜から離れた。
「勝ちを取りに行くよ。いい試合だったなんて言葉だけで終わらせない。結果を残す」
迷いなく告げる彼は自信に満ちている。
彼と一緒ならば、同じものを見ることが出来るだろうか。
彼女はふふ、と小さく笑った。
「じゃあ、しっかりサポートする。強化メニューでも考えようかな」
「…程ほどにね」
「努力するわ」
ふわりと桜が視界を舞う。
もう、迷いも寂しさも感じなかった。
椎名 翼 / 夢追いのガーネット