006.サヨナラ。

おいで、と呼ばれたような気がした。
気の所為かもしれない。
そう思いながらも、足は自然と動いていく。

「惣右介さん…」

瞬歩で姿を現すと、彼は笑みを浮かべた目を細めた。
すでに、四番隊副隊長からの話を聞いて、事の全貌を理解している。
紙面上、誰よりも近いはずの自分は、半分ほどしかわかっていなかった。
その場に集まっている死神たちの目が痛い。

「おいで」

足を進めることは出来なかった。
はっきりとした答えを出さない私を、彼らはどう理解しただろうか。
動くことの出来ない私を残し、時が進む。

気がつくと、私の周囲に白い壁が出来ていた。

「―――殿!!」

呼ばれたのは恐らく自分の名前なのだろう。
見えない何かに遮られたそれを、まるで他人事のように耳にする。
ぐらり、と足元が宙を彷徨った。
何かを叫んでいる声が遠い。

「さようなら」


真っ直ぐに見上げた先に、彼がいる。
彼はただ、満足げに微笑んだ。



さようなら、微温湯の時間。
さようなら、小さな箱庭。
さようなら、不変の世界。

さようなら、理解し合えなかった人達。

死神 / 逃げ水

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08.08.25