唯一じゃなく

「最近、学校の近くで不審者が目撃されてるんだってね」

雑談の中、ふとツナが零した言葉にいち早く反応したのは、自称彼の右腕、獄寺だった。

「大丈夫です、10代目!!不審者なんてこの俺がぶっ飛ばしてやります!!」
「いや、そう言う意味じゃなくてね!?紅も危ないんじゃないかって話だよ!」

思わず声を大きくしたツナ。
ハッと気付いた時には遅い。
教室の端にいた本人、紅が声に気付いて彼の方を見ていた。
読んでいた本に栞を挟んで近付いてくる彼女。
ツナと同じように視線を彼女に向けていた獄寺が、当然のように隣に空間を作った。
そして彼女もまた、自然に用意されたそこに落ち着く。

「私がどうかした?」
「いや…」
「不審者が出てるから危ねーんじゃねーかって、心配してくださってるんだ」
「あぁ…不審者の話」

聞いてるわ、と告げた彼女が肩を竦める。

「たぶん、今日明日あたりに解決するんじゃないかしら。兄さんが動くって言っていたから」
「ケッ!どうせ動くなら被害が大きくなる前に動けよ」
「随分と逃げ足の速い不審者で、犯行も計画的だから、尻尾を掴むのに時間がかかったみたい」

そう言うと、紅はツナに向かってにこりと微笑む。
そして、安心して、と言った。

「もうすぐ、笹川さんも安全になると思うから」
「あ、うん、それは良かった―――けど、俺が心配したのは紅も一緒だよ」

その言葉にきょとんとした表情を見せたのは紅だけではない。
何で獄寺くんまでそんな顔をするの!?心中を声に出す勇気はないツナだった。

「こいつは大丈夫っすよ、10代目」
「…そうね。兄さんがいることは学校どころか並盛中に知れているし。護身術も覚えているし」
「でも、兄とか護身術とか…そう言うのは関係ないよ。女の子なんだから、気を付けないと」

ツナの言葉に、紅は瞬きをした。
そして、次に穏やかな笑みを浮かべる。

「あなたのそう言う分け隔てなく優しい所って紳士的で素敵よね」
「えぇ!?し、紳士的!?」

ツナが紳士的。
どこぞの家庭教師が聞いたら鼻で笑いそうな言葉だ。

「おい!10代目が困ってるだろ!」
「隼人はもう少し彼の良さを見習うべきだわ」
「お前には優しくしてるだろ!?まだ足りねーって言うのか!?」
「そうは言っていないけれど。私以外の女の子にももう少し優しく接したらって言ってるの」
「…そんな無意味なことしてどーすんだ?」
「だから…そう言う所が紳士的じゃないのよ」








「獄寺たち、またやってんのな」
「あ、お帰り、山本。先生の話、どうだった?」

二人の横を通ってツナの元へとやってきた山本。
教師から呼び出しを受けていて留守していたのだ。

「おう!この間の宿題、すっかり忘れちまっててさ。しっかりしろって怒られてきたぜ」
「俺はとりあえず出したけど…間違いばっかりだったよ…」
「はは!ドンマイドンマイ!それより、いつまで続くんだ?」
「うーん…いつまでだろうね。って言うか、これで付き合ってないんだから不思議だよね」

言い争いと言うには、紅が冷静すぎるだろう。
しかしながら、二人が言っている内容は周囲からすれば惚気以外の何物でもない。
初めこそ慌てていたツナだが、週に何度か見る光景に耐性が出来てしまった。

「…ねぇ、獄寺くん」
「はい、何ですか、10代目!!」

ぴたりと紅とのやり取りを止め、ツナに向き合う所は流石と言うべきなのか。
獄寺の優先順位を目の当たりにし、苦笑するツナだが紅は彼の行動を気にした様子はない。
それでこそ獄寺なのだと理解しているのだろう。

「今日は紅と一緒に帰ったら?ほら、解決するかどうかわからないし…一応」
「それは駄目です!!俺には10代目を守る重要な役目が!」

迷いは一切なく、即答だ。
予想していた返答に、うーん、と頭を悩ませるツナ。
大丈夫だと彼女は言うけれど、やはり心配は心配だ。
そんな彼らを見て、溜め息を一つ零した紅が緩く口を開く。

「大丈夫だと言っても納得してくれないし、もちろん隼人が譲るはずもない。
私があなたたちと一緒に帰れば円満に解決できる?」
「あ、それいいんじゃねーか?それなら二人の言い分がちゃんと解決されてるよな!」

朗らかな声で上手くまとめる山本。
この空気は意識して出せるものではないと、紅は心中で感心する。
顔を見合わせたツナと獄寺。

「うん。俺はそれでいいと思うよ」
「…10代目がそう仰るなら。紅、先に帰るなよ!」
「私が言い出したんだから、心配しなくても勝手な行動はしないわよ」

それで話は終わりと判断したのか、紅が席に戻ろうと踵を返す。
そこで、校舎内にピンポンパンポーン、と言う放送開始音が流れた。

『連絡します。ここ数日目撃されていた不審者ですが、風紀委員の尽力の元、無事逮捕されたようです。
並盛中央病院から警察を通して発表されました。風紀委員の皆様に感謝し―――』













「何で私は一緒に帰らなきゃいけないの?」

不審者の件は解決したのに。
僅かに不満げな表情を見せているのは、図書館に寄ることが出来なかったからだろう。
前を行くツナと山本には聞こえない程度の音量で、獄寺に言及する。

「当然、10代目と一度交わした約束は守るべきだろ」
「原因が解決したのに守る理由はないと思うけれど…まぁ、いいわ」

肩を竦めて自分が引くことを選んだ紅。
ツナのことで獄寺が引くはずがないのは、今までの経験上理解していることだ。
時間を無駄にしない選択肢を取っただけのこと。

「…ねぇ、私はいつも一緒に帰った方がいい?」
「んだよ、急に」
「ツナに心配させてるなら、駄目なのかなって」

そう思ったんだけど、と告げると、獄寺は前を歩く彼らを見た。
隣に並ぶよりも後ろからの方が守りやすいと言った彼の言葉は、半分くらいは本当なのだろう。
しかし、隣にいるからこそ守れる障害と言うのも無視はできない。
その役目を山本に託すと言う事、それは獄寺にとって、大きな意味を持つはずだ。
それが誰のための行動なのか―――気付かない紅ではない。

「…好きにしろよ。お前はいつだってそうしてきたんだろ」
「……そうね。うん…そうする」

そうすべきだと言わないのは、彼が紅を心配していないからではない。
紅の力量を正しく理解し、かつ彼女が自由を好む人間だと知っているから。
紅との付き合いはツナの方が遥かに長いし、多くのことを知っている。
けれど、不思議と自分を理解する獄寺の隣は、紅にとっては楽な場所だった。

「あ、ツナが躓いた」
「10代目ー!!」

前を歩いていたツナがよろめくのを見て、弾丸のように走る彼。
そう遠い距離ではなかったけれど、それでも驚くべき反応速度だと思う。
紅は三人の様子を眺めながらくすくすと笑った。

一番じゃなくていい、唯一じゃなくていい。
傍にいることを許されている―――それだけで、十分だった。

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10.09.07