新しい年の迎え方

「何で気が付いたらイタリア!なんて事になってるの!?」

再会の喜びよりもまず、そう声を上げた。
それと同時に、繰り出される拳。
紅だからと油断したスクアーロは、それでもあっさりとその拳を避ける。
隊長の地位は伊達ではないのだ。

「落ち着―――」

彼女の拳を封じ、短く息を吐いて、落ち着け、と言おうとした。
彼の死角となる位置から繰り出された膝蹴りが、鳩尾を直撃するまでは。

―――会う度にパワーアップしてねぇか、この女!?














「ったく…会いたいなら会いたいって、素直に言ってよ。そうしたら…」
「来るってのか?」
「ううん、来ない。だって年末って旅行客が馬鹿みたいに多いもん」

電話ならOKだったよ、と笑い、小さな期待すらも裏切るのが紅だ。
この突飛な所も気に入っているのだが…多少のショックは否めない。

「それにしても…そっか。自家用ジェット、って言う手があったのね」
「…ヴァリアー専用機だぞ」
「うん。でも、XANXUSさんに頼めば動かしてもらえるって事でしょ?」
「(何でこいつらこんなに意気投合してやがるんだ…!?)」

そう強くもないくせに、ヴァリアーの誰に対しても弱気にならない所が気に入られているらしい。
最近では、少しは見られる腕になってきた、と幹部が率先して紅強化計画に参加していたりする。
ちなみにそれはスクアーロには極秘で行われていた。
回を追うごとにキレを増す彼女は、最早一般人と言う区分を超えている。

「あーあ…今から帰っても雲の上で年越しだし…仕方ないか…。折角、父さんとお節作ったのに…」

二日も前から仕込みをしたのに、と肩を落とす彼女を見ていると、なけなしの罪悪感が込み上げる。

「…悪かったな」

いつもの大声ではなく、冷静さを含ませたその声に、紅が顔を上げた。
表情を見る限り、本当に申し訳ないと思ってくれているようだ。

「(その顔だけで、全部許せてしまうんだって―――気付いてないのよね)」

矢印が彼からの一方通行だったなら、今すぐにでも飛行場に向かっている。
紅は、それだけの行動力を持った人間なのだ。
彼女がこの場所に滞在する事を受け入れている時点で、矢印は一方通行ではない。
何だかんだと言うけれど、こうして一年の終わりを彼と共に過ごせる事は嬉しい。
もちろん、お節が…と言う部分も本音だが。

「ま、いいわ。こっちの新年も気になるし…。所で―――」

紅が思い出したようにスクアーロの袖を引く。
何だ、と視線を向ける彼に、真剣な表情を向ける彼女。

「一つ、聞いてもいい?」
「…おう」
「赤、好きなの?」

とても真剣な表情だったから、何を言われるのかと構えていた。
それなのに、彼女の口から飛び出したのは、これだ。
二人の間に沈黙が下りる。

「…説明しろ」
「…スクアーロが喜ぶわよ!って貰ったんだけど…喜ぶの?つけた方が良い?」

紅が声真似をしたのは、ルッスーリアだ。
それを理解したスクアーロの脳内には、嫌な予感しかしない。

「だから、何の事だ?」
「これ」

そう言って彼女が差し出したものを見て、彼は壊れた機械のように数秒間停止した。
彼女が取り出したものは、確かに赤い。
上下が対になっており、無駄に凝ったデザインが憎い。
それは女性用の下着だった。

「捨 て ろ!!!」
「えー…デザインは可愛いんだけど…気に入らない?」
「………(誰だ、日本人がシャイだって言った奴は!?)」

恥ずかしげもなく首を傾げる彼女に、スクアーロは頭痛を覚えた。
スクアーロとて、既にこの程度で羞恥心を覚える様な年齢ではない。
ない、が―――紅自身が不思議なくらい冷静に話すものだから、逆にスクアーロの方が戸惑っていた。

「駄目…?」
「………好きにしろ!!」

ことん、と首を傾げられ、駄目だとは言えなかった。










「イタリアでは大晦日に赤い下着をつけると、縁起が良いって言われるんだよ」

翌朝、マーモンにルッスーリアから貰ったと言うと、そんな話を教えてくれた。
あぁ、なるほど、と納得しながら、淹れたてのコーヒーを飲む。

「で、つけてんの?」

からかう気満々と言った様子で尋ねてくるベルフェゴール。
紅はにこりと微笑んだ。

「秘密。知りたかったらスクアーロに聞いて?」
「紅!」
「大丈夫よ。いくら破天荒な私でも、誰彼構わず見せたりしないわ」

そう言う問題じゃない、と言うスクアーロの話を右から左に聞き流していると、ポケットの携帯が震えた。
パカッと開いたそこには、メール着信の報せ。

「武からあけおめメール貰ったのは初めてだわ」

新鮮ね、と笑い、隣に座るスクアーロの肩に凭れた。

「どうした?」
「んー、頭こっち」

彼の長い髪を引っ張り、頭を自分側へと引き寄せる。
彼からの文句を無視し、斜め上に携帯を構えた。

―――ピロリーン♪

「…ん、悪くない」

仕上がりを確認し、いそいそと添付メールを作る。
後日、この写真がツナの度肝を抜く事になるのだが、それはまた別の話だ。

- - - -
あけましておめでとうございます。
いつも『Hora fugit』へのご来訪ありがとうございます。

皆様とのお付き合いが始まり、何年になるのでしょうか。
長い付き合いの方もいれば、短い付き合いの方もいるのでしょうね。
そんな、一期一会を大切にしたいと思います。
今年もサイト共々よろしくお願いいたします。

2012年が皆様にとって良い年でありますように。

Hora fugit 雪耶 紅

12.01.01