新しい年の迎え方

「あれ、もしかして」

聞き覚えのある声が聞こえた。
きょろ、と周囲を見回し、最後に後ろを振り向いたところで、漸くその声の主と対面する。

「やっぱり。こんにちは」
「ちわっす」

にこやかに笑っていたのは、紅だった。
奇遇ね、と微笑む彼女の手には買い物カゴ。
数種類の根菜や、紅白蒲鉾などの練り物。
その内容を見れば、何のための買い物なのかは明白だ。
かく言う山本もまた、そのための買い物に来ているわけだが。

「紅さんがお節を作んのか?」
「ええ。恭弥の希望で、毎年作っているわ」

元日から出かけていなくなる癖にね。
なんて肩を竦める彼女は、雲雀の行動を理解しているのだろうか。
あれだけ紅を大事にしている彼だから、もしかすると隠しているのかもしれない。
そんな事を考えた山本だが、それは次の言葉により、否定された。

「まぁ、最近は無茶な集め方もしなくなったみたいだし…許容範囲だけど」
「…紅さん、知ってたんだ?」
「並中風紀委員の創設者だもの」

知ってて当然、と当たり前のように頷いた彼女。
あんな形の風紀委員に作り替えたのは雲雀だが、基盤を作ったのは紅なのだ。

「…紅さんの時から、あんな徴収とかやってたのか?」

聞いてもいいだろうか…と思いつつも、好奇心には勝てなかった。

「徴収はしなかったわ。礼金とか、そう言うので上手く回していたから」
「へぇ…」
「今はそう言う細かい事をする人材がいないのよ。ほら、あの子はそう言うの、しそうにないでしょ?」

そう言われ、雲雀を筆頭とする風紀委員の面々を思い浮かべる。
お世辞にも、そう言う細かい作業が得意とは思えない顔ぶればかりだ。
山本の苦笑の意味を悟り、でしょう、と笑う紅。

「地域の犯罪軽減に大きく貢献している事は事実だし―――警察にも黙認されている以上、合法なのよ」

一応だけどね、と唇の前で人差し指を立てる。
そして、話題を変えるように紅の視線が山本の手元へと落ちた。

「買い物の手伝い?君たちくらいの男の子なら、食材の良し悪しもわからない子が多いと思うけど…感心ね」
「そうか?俺の場合は、家が店だからなぁ…」

覚えたと言うよりは、気が付けば身についていたと言った方が正しい。
父に言わせればまだまだな腕だが、寿司を握ればそれなりの出来栄えだ。

「寿司以外も得意なの?」
「んー…まぁ、そこそこ」

基礎を知れば、応用が出来る。
その先には努力が必要になってくるけれど、人並み以上に出来ると言う自覚はある。

「紅さんは…得意そう。煮物とか」
「うん、正解」
「やっぱり。雲雀の奴、そう言うの好きそうだもんな」

弟の名前を出して納得する山本に、紅が首を傾げる。

「雲雀のためってのがきっかけで、やるからには完璧を目指して―――って感じだろ?」
「………意外と、勘が良いわよね」
「紅さんは意外とブラコンだよな」

そう笑う山本を見て、内心で舌を巻く。
未だかつて、こんな風に紅を理解した男がいただろうか。
雲雀と言う名前を聞けば、もしかして、と蒼褪め、姉だと知れば、逃げ出すような男ばかりだった。
山本は雲雀の姉である事をごく当然の事と受け入れ、その上で何でもないように接してくる。
紅にブラコンだなんて言った人は、彼が初めてだ。

「…変な子」

口ではそう言いながらも、紅の表情は柔らかい。









それから、二人で色々と意見を出し合いながら買い物を済ませ、店を出る。

「乗せていこうか?」

自転車置き場から荷台付のそれを引いてきた山本に、紅はゆるく首を振る。

「ありがとう。でも、大丈夫よ」
「いや、でも…重いだろ?」

どうするつもりなのか、と言う疑問を口にするよりも先に、近付いてくるバイクの音に気付く。
二人の近くでスピードを緩めたバイクが、キキッと停止した。

「…待たせた?」
「丁度良かったわ」

バイクを降り、紅の手から荷物を受け取ったのは、言うまでもなく雲雀だった。
こんな時まで制服なんだなぁ、と考えている辺り、山本の頭は他の人とは少し違う。
荷物を積み終えると、紅は慣れた様子で雲雀の後ろに跨る。

「じゃあ、良いお年を」
「ああ、紅さんと雲雀も良いお年を!」

雲雀はちらりと山本を一瞥し、紅の腕を確認してからバイクを走らせた。








「あら、手伝い?」
「お?あけましておめでとう」
「ええ、おめでとう。君たちも」
「ショバ代の回収にでも来たのかよ?」
「ご、獄寺くん!そんな喧嘩腰にならなくても…」
「回収は私の仕事じゃないから。一ついただける?」
「ほい!200円な」
「…はい」
「一本おまけ!雲雀と来てんだろ?」
「あら、ありがとう」

「山本!テメー何を勝手に…!」なんて声を背中で聞きながら、待ち合わせ場所へと急ぐ。

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あけましておめでとうございます。
いつも『Hora fugit』へのご来訪ありがとうございます。

皆様とのお付き合いが始まり、何年になるのでしょうか。
長い付き合いの方もいれば、短い付き合いの方もいるのでしょうね。
そんな、一期一会を大切にしたいと思います。
今年もサイト共々よろしくお願いいたします。

2012年が皆様にとって良い年でありますように。

Hora fugit 雪耶 紅

12.01.01