教訓、慣れない事はするな

「コウ!無事か!?」

バンッと扉を吹き飛ばす勢いで駈け込んで来たエース。
コウはひらりと手を振り、彼を迎え入れた。

「うん、大丈夫。まさかキッチンで敵の襲撃を受ける羽目になるとは思わなかったけど」

思わず包丁で応戦しちゃった。
と刃毀れした包丁に肩を竦める彼女。
偶々、エースが「小腹が空いた」と言うから何か作ろうかとキッチンへとやってきた。
仲間に呼ばれた彼が席を外した僅かな間に、あろう事か、キッチン付近の廊下に砲弾を撃ち込まれたのだ。
雪崩れ込んできた敵の海賊は、全て伸してから海に放り込んでやった。

「で、食材をいくつか駄目にしちゃったから…責任を取って、盗ってきます」
「俺も行く」
「ありがと」

じゃあ、行こうか、と黒猫に姿を変え、ぴょんと彼の肩に乗る。
コウの背を支えたエースが、一飛びで敵船へと乗り込んだ。

「ついでに、新年会の前だし、お酒も貰おう」
「そうだな。酒ならどんだけあってもいいだろ」
「新年早々、白ひげに手を出した事を後悔させてやる!」
「散々海に放り込んだ後だろうが」
「それもそうだね」

呑気な会話と共に、船の奥へと進んでいく二人。
やがて到着した食糧庫には、山ほどの食材が残されていた。

「…あ、―――」

またたびりんご、と言う前に、コウの手からそれが奪われる。
綺麗な直線を描いたそれが、がしゃーん、と換気用の窓を割り、海へと落ちて行った。

「何で捨てるの」
「酔ってないな!?」

不満を漏らすコウだが、肩を掴んで確認してくるエースの剣幕に、思わず口を噤む。
大丈夫、と答えると、彼は安堵したようにしゃがみ込んだ。

「頼むぜ…お前、酔うと大変なんだからな!」
「お酒では酔わないよ」
「またたびで酔うだろうが!」
「むむ…あれ、美味しいのに」

割れたガラス窓に視線を向け、残念そうに肩を落とす彼女の姿に、軽い罪悪感が生まれた。
しかし、ここは心を鬼にすべきところだ。
前にコウが酔った時は、本当に大変だった。

「酒は山ほどあるな。これは、他の連中も呼んだ方が良さそうだ」
「じゃあ、呼んでこようか?」
「俺が―――いや、頼む」
「?じゃあ、行ってくるね」

そう言って、コウが足早に船に戻っていく。
彼女を見送ったエースは、独りになった食糧庫の中で、棚からそれを取り出した。
小箱に山のように入っていたのは、先ほど放り投げたまたたびりんごだ。
大小さまざまなそれが、所狭しと箱に押し詰められている。

「ったく…何でこんなもん積んでんだよ」

コウを一人で残していたら、大変な事になっていたかもしれない。
やれやれと溜め息を吐き、先ほど割った窓へと近付く。
そして、箱の中から一番小さいまたたびりんごを一つ取り出し―――箱ごと、海へと放り出した。
手にしたりんごは、ポケットに押し込んでおく。
それから、食料の仕分けへと戻った。





ドスドスと遠慮のない複数の足音が近付いてくる。
あぁ、やっと帰って来たか。
考えがそこに至ったと同時に、食糧庫のドアが開かれ、先頭にいたコウがエースに向かって笑った。

「呼んで来たよ!」
「さんきゅ。良い新年になりそうだぜ」
「だね!」

二人は顔を見合わせて笑った。

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あけましておめでとうございます。
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皆様とのお付き合いが始まり、何年になるのでしょうか。
長い付き合いの方もいれば、短い付き合いの方もいるのでしょうね。
そんな、一期一会を大切にしたいと思います。
今年もサイト共々よろしくお願いいたします。

2012年が皆様にとって良い年でありますように。

Hora fugit 雪耶 紅

12.01.01