教訓、慣れない事はするな

「コウ」
「…はい」
「頼むから、お頭を見張っててくれ。頼むから」
「…うん。何か…ごめんね?」

少し目を離した隙に、忽然と姿を消していた人。
慌てて探して、漸く見つけた時には―――この状況だった。
コックからの切実な願いに、コウは申し訳なさそうに眉を下げる。

「お頭!コウに迷惑をかけるなよ!俺たちにも!」
「おー、悪かったな」

本気で悪いと思っているのか!?と問い詰めたくなるような、飄々とした物言いだ。
ぐっと言葉を飲み込み、二人をキッチンから追い出すコックたち。
バタン、と閉じられた扉。

「………私まで怒られちゃったんだけど」
「ま、同罪って事だな」
「私、何でシャンクスのお守なんて引き受けちゃったんだろう…」

三日前の自分の行動を悔やむコウだった。
年明けの宴会準備に忙しいからと、コックから依頼を受けたのが三日前。

「お頭の事をちゃんと見ててくれよ。あの人、すぐに忍び込んできては無意識にキッチンを荒らしてくんだ」

心底困った様子だったから、いいよ、と即答した。
苦労するね、と言えば、わかってくれるか!?と喜ばれたものだ。

「こんなに大変だとは思わなかった…」

いつもは振り回す側の彼女が、シャンクスの突飛な行動を前に、疲労を募らせている。
追いかけられるのは慣れているけれど、追いかけるのは不慣れ。
甲板の陽気に目を細め、ふと気が付くと、シャンクスが消えていたりして、慌てて彼を探す。
もう何度、彼を見失った事か。

「って、またいない!?」

どこに行ったのー!!!コウの声が船の上に響き渡った。


「…5回目だな」
「いや、7回目だろ」
「お頭も飽きねぇよな…」
「あれはコウをからかって楽しんでるんだろ。っつーか、追いかけられてるのが楽しくて仕方ないって感じか」
「普段は追いかける側だからなぁ…」
「…頑張れ、コウ」














「ベック!シャンクスは!?」

足音を消す余裕すらなく、部屋の中に駆け込んできたコウ。
そんなコウを振り向くベックマンの隣に、彼はいた。
ベックマンは無言で彼を指す。

「やっと見つけた!何で逃げ足ばっかり早いの!?」
「やっと見つけたか」

遅いぞ、なんて言われて、思わず手に持っていた酒瓶を投げてしまった。

―――コウ、今度お頭を見つけたらこれでも飲ませとけよ。

そう言って、仲間から渡された酒だ。
顔面直撃コースだったのに、いとも簡単にそれを受け止めてしまう彼。
慣れた様子でコルクを抜き、迷いなく酒を喉へと通す。
暫くはここを動く様子の見られないシャンクスに、コウはその向かいに腰を下ろしてぐたりとテーブルに俯せた。

「ご苦労だったな、コウ」
「もうやだ…追いかけるのって性に合わない」
「…だろうな」

普段の生き生きした彼女を思いだせば、納得できる。
コウは拗ねた様子で長椅子にごろりと横たわった。

「…寝る」
「寝たらまた逃げるぜ?」
「もういい。知らない」

ふいっと視線を逸らした彼女。
程なくして、小さな寝息が聞こえ出した。
そう言えば、この時間帯はいつも昼寝をしている頃だ。

「ったく…あんたも人が悪いな」
「追いかけてくるのが可愛くてな」

やりすぎたか、と反省し、彼女の髪を撫でる。
目を覚ましたコウが、変わらず隣にいたシャンクスの姿に驚いたのは、また別の話だ。

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あけましておめでとうございます。
いつも『Hora fugit』へのご来訪ありがとうございます。

皆様とのお付き合いが始まり、何年になるのでしょうか。
長い付き合いの方もいれば、短い付き合いの方もいるのでしょうね。
そんな、一期一会を大切にしたいと思います。
今年もサイト共々よろしくお願いいたします。

2012年が皆様にとって良い年でありますように。

Hora fugit 雪耶 紅

12.01.01