教訓、慣れない事はするな
「頭が痛い…」
ずきずきと痛む後頭部。
思わず医者を呼びたくなる痛さだが、原因がその船医に寄るものなので、頼るのは難しい。
たぶん、泣きつけば「仕方ねぇな」と言って氷嚢をくれるだろうけれど。
拳骨を食らう事をしたのは自分なので、ここは反省すべきだと思った。
航海と言う状況の中、食材を無駄にした罪は重い。
いつ、何が起こるかわからない状況で、食料は命の糧となるものだ。
そのつもりがなくとも、結果としてそうなってしまえば、同じ事。
「相談、すれば良かったんだよね」
今朝、届いた新聞で、小さな島国の新年の話が載っていた。
年末に作った料理で、新しい年を迎える。
自分たちとは違う風習に、心を動かされてしまったのだ。
「ほんと…馬鹿な事をしちゃったなぁ…」
新年早々、ローを怒らせてしまった。
怒られる側は当然悲しいけれど、怒る側だって良い気分ではないはずだ。
そうさせてしまった自分が、情けなかった。
「コウ」
ビクリ、と大袈裟なほどに肩が揺れてしまった。
頭から飛び出した猫耳は、彼女の心境を表すようにぺたりと伏せられている。
振り向くに振り向けないらしいコウの背中に、ローは小さく溜め息を吐いた。
「…反省したか?」
「…うん」
ごめんなさい、とそのままの姿勢で謝罪を口にする。
これで何度目の謝罪になるのか、わからない。
悪い事をしたと言う自覚を持っている彼女は、謝罪の言葉を躊躇わない。
大人になると、色々な心の事情でその言葉を見失ってしまう事もよくあるものだが…彼女は、擦れていない。
そう感じた。
「次からは、ちゃんとコックを頼れよ」
ポン、と頭を撫でてくれる、優しい手。
大きな掌にガシガシと髪を撫でられ、耐えていた最後の砦が、崩壊した。
ボロボロと零れる涙を隠すように、ギュッと膝を抱く。
ローはそんな彼女の隣に座り、飽きる事無く彼女を撫で、慰め続けた。
「何で急に料理をしようと思ったんだ?」
「…昔、男の人は手料理が好きだって聞いたから」
だからお前もちゃんと料理を覚えろよ!と言ってくれたのは誰だったか。
赤髪海賊団の誰かだった事は覚えているけれど、名前までは思い出せない。
こんな事になるなら、ちゃんと聞いておくべきだった。
「別に、お前が料理下手でも嫌いにはならないぞ」
「うん。知ってる」
そう言う事で心を動かすような小さな人ではない事くらいは、誰よりもわかっている。
けれど、手料理を食べてほしいと、一度そう思ってしまった考えは、消せなかったのだ。
「…これからはちゃんと覚える」
「それはいいが、ちゃんと習えよ」
「大丈夫!来年は絶対、美味しいって言わせてみせるよ!」
ぐっと拳を握るコウに、頑張れよ、とその頭を撫でる。
「食材は無駄にできないから、しっかり盗めよ」
「え、敵船から?」
「技を盗めって事だ」
ビシッと額を弾かれた。
拳骨ほどは痛くないけれど、ピンポイントに入れば痛い。
思わず涙目になり、額を押さえるコウ。
そんな彼女を楽しげな表情で見つめるロー。
「楽しそうだな、船長」
「まったくだ。ったく…あの猫娘には困ったもんだ」
「食料、行けそうか?」
「ああ。基本的にはメインに使わない部分ばっかり使ってたからな。厚めに切った皮とか。
そう言う部分はちゃんとわかってんのに…否定せずに怒られるあたり、真面目だよ、アイツは」
「船長も気付いてるだろ」
「だろうな。それより、キッチンの被害が深刻だ」
「何をどうすればあんな風になるんだろうね?」
「さぁな」
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2012年が皆様にとって良い年でありますように。
Hora fugit 雪耶 紅
12.01.01