溢れる愛情を、あなたに

現世では、年越しにはお節を作るらしい。
そもそも自ら料理をしないのが貴族。
紅もまた、そう言う家で生きてきていたので、織姫の言葉は不思議と耳に残っていた。
彼女からそれを聞いたルキアは、それならば、と提案する。

「織姫の家を借りて、お節に挑戦しませんか?」
「でも…作る必要はないと思うけれど」
「兄様は、喜ぶと思います」

紆余曲折の末、漸く分かり合えた二人だ。
二人が揃う光景や、穏やかな空気が好きで。
もっともっと、幸せになってほしいと、ルキアは日々、思考を巡らせている。
白哉の話を出せば、紅が否、と答えない事を理解した上で、彼女はそれを提案したのだった。





「ガスコンロと言います!ここを捻ると…」
「…火が使えるのね、便利だわ。調節は…こう?」
「おお、小さくなった!流石です、姉様!」

二つ返事で、快くキッチンを提供してくれた織姫。
どうせなら一緒に作りましょう、と声をかけた紅に、やめといた方が…と止めたのは、案内してきた一護だ。
壊滅的な料理センスを知っているので、それとなく止めてみたのだが、紅は、大丈夫よ、と笑うだけだった。
彼女が言うのだから、大丈夫なんだろう。

―――何かあっても俺に言ってくれるなよ、白哉!俺は止めたからな!

本人には聞こえない、切実な心の声を叫び、彼は家路を急いだ。

「…ルキア、何をしようとしているの?」
「牛蒡の皮を剥こうと…」
「そんな風に剥いたら、食べる所が無くなってしまうわよ」

こうしていくの、と包丁の背で薄皮をこそぎ取っていく。
ほぅ…と感心したように輝く目に、小さく笑った。

「料理をしていないのでは…?」
「しないだけで、出来ないわけではないわ。って、織姫!何を入れようとしているの!?」

ほのぼのと姉妹の会話を楽しんでいた紅が、ふと隣に目を向けて慌てる。
スプーンで何かを掬った彼女が、煮える鍋の中にそれを落とす寸前だった。

「隠し味です!」
「…餡子、よね。それ」
「はい!甘くて美味しいですよ!」

こしあんです!と笑顔の彼女。
そう言う問題ではない。
一護が「やめた方が」と言った理由が理解できた。
彼女から目を離すのは危険だ。

「織姫、一護に食べてもらいたい?」
「ええ!?」

がしゃーん、と派手な音を立ててボウルが流しに落ちた。
真っ赤な顔をする織姫に、可愛いな、と思う。

「なら、教えてあげるから…ちゃんと覚えましょうね。もちろん、ルキアも」
「はい先生!」
「頑張ります!」

右手を上げて返事をする彼女らに、妹が二人いるみたい、と笑った。













「………」
「すみません…教える時間が楽しくて、つい…作りすぎてしまいました」

白哉の唖然とした表情は、そうそう見られるものではない。
新年早々、とても珍しいものを見てしまった。
そんな考えよりも、申し訳なさが先に立つ。
ずらりと並んだ料理の数々は、見た目にも美しく、白哉に出しても恥ずかしくない出来栄えだ。

「…随分と張り切ったようだな」

白哉が、そう呟く。
とにもかくにも、量が多い。
宴会か?と確認したくなるほどの量だ。
これを、織姫の部屋の狭いキッチンで作ってしまったのだから、ある種の才能なのかもしれない。

「どう考えても、食べきれませんよね。隊の皆さんでも招きましょうか…?」
「…そうだな。明日にも残るようであれば、考えよう」

しゅんと肩を落とす紅に、白哉は気にするな、と首を振る。
とても楽しい時間を過ごしたと言う事は、ルキアの口から飽きるほど聞いた。
話しても話したりないくらいに濃厚な時間を過ごしたのなら、この結果も頷けると言う物。
そもそも白哉には、紅が作りすぎようが、不出来なものを作ろうが、咎めるつもりなど一切ない。
普段は料理をしない彼女が、食べてほしいと作った手料理だ。
喜びこそあれど、責める理由など一つもないのだから。

「…どう、ですか?」

白哉が食事に手を付け、言葉を発するまでの間。
緊張と共にいた紅は、思わずそう問いかける。

「―――良い味付けだ」
「…良かった」
「雪耶では、料理を教えるのか?」

貴族の娘としては、意外だったのかもしれない。
紅はいいえ、と首を振った。

「家の料理人に、少しずつ教えてもらいました」

習っておいてよかったです。
そう言って、彼女が嬉しそうに笑うから。

「紅」
「はい、白哉様」
「また、料理を作ってくれるか?」

自然と零れ落ちた言葉に驚く。
紅以上に、呟いた本人である白哉自身が。
自分らしくない発言を撤回しようにも、零れ落ちた言葉はまさしく本心。

「もちろん…喜んで!」

満面の笑顔を見てしまえば、これで良かったのだと納得できてしまう。






「紅さん、何でも出来るんだなぁ…」
「姉様だからな!」
「いや、お前が胸を張る所じゃねぇけど…うん、美味い」
「だろう!?お裾分けをしてやろうと言う私に感謝しろ!」
「あのよ、ルキア…」
「何だ?」
「今度、紅さんにたい焼き…」
「その辺の店で買ってこい!莫迦者!」

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あけましておめでとうございます。
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皆様とのお付き合いが始まり、何年になるのでしょうか。
長い付き合いの方もいれば、短い付き合いの方もいるのでしょうね。
そんな、一期一会を大切にしたいと思います。
今年もサイト共々よろしくお願いいたします。

2012年が皆様にとって良い年でありますように。

Hora fugit 雪耶 紅

12.01.01