巡る時間の中で

「ねぇ、これってよくある事なの?」

お玉を片手に、悠希がそう尋ねてくる。
包丁を持つ手を止め、紅は苦笑した。

「…さぁ。現実だと思う?」
「指でも切ってみたらわかりそうだけど…二人して同じ夢を見てるなんて、信じられないわよね」
「そうね。まさか、政宗様にお節を作る日が来るとは思わなかったわ」

溜め息交じりのその言葉は、どこか楽しげな色を含んでいる。
紅は、幼い頃から母と共にお節を作っていた。
戦国時代での彼女の立場では、そう言う事は出来ないし、火の扱い方を覚える所からになってしまう。
だから、予定外だとしてもこうして手料理を振る舞う機会が出来て、嬉しいのだろう。
意外とリビングに馴染んでいる男二人の背中に視線を向け、悠希は納得した。

「何か、筆頭は慣れてる感じ?」
「んー…そうね。何度か経験しているから」

現実なのか、夢なのか。
結局のところ、不思議な体験としか言えない出来事だが、記憶には蓄積されている。

「政宗様、コーヒーを飲みますか?」
「おう」
「砂糖とミルクは?」
「任せる」

こちらを一瞥して、再びテレビに視線を戻す彼に、わかりました、と頷く。
面白そうだから元親さんにも出してみよう、と四つのマグカップを用意した。

「…慣れてるわね、本当に」
「元親さんも、創作意欲をこれ以上ないくらい刺激されてるみたいよ?帰ってからが大変ね」
「…国が傾きそうなら、手っ取り早く稼ぎに行かせるから大丈夫よ」
「でも…作れそうなカラクリなら、生活が楽になるかもしれないわね」
「……………携帯の充電器、ばらしてみようか」
「電波はどうするつもり?」












年が明けて、紅は政宗と共に初詣に来ていた。

「…夏祭りと同じで、着物を着る習慣があるのか?」
「え…?あぁ、あれは年末年始の帰省ついでに地元で成人式を迎えるんでしょう」

成人式でよく見かける、白い毛皮を襟元に巻いた新成人たちが、楽しげに道を歩いていく。
成人式?と疑問を口にする政宗に、慣れた様子で内容を説明した。

「そうか…この時代は、二十歳が一人前なんだな」
「ええ。平和、ですから」

政宗と生きる戦国時代より後にも、大きな戦争が繰り返された。
けれど、それを乗り越えて、漸く手に入れた平和。
世界各地にはまだまだ戦争を続けている国はあるけれど、日本と言う国は平和だ。
紅は隣に立つ政宗を見上げた。

「行きましょうか」
「ああ」

初々しい新成人を横目に、二人の足は近くの神社へと向かう。
境内へと足を踏み入れると、どことなく凛とした空気に変化したように感じるのは、果たして気の所為なのだろうか。
長くも短くもない初詣を済ませ、帰路へと着く二人。
こうして、政宗と共に現代の時間の中で新しい年を迎えるなんて―――想像もしなかった。
まるで夢のような時間は、戦国時代へ戻っても記憶として蓄積される。
本当なのか、そう思い込んでいるだけなのか。
真実は、闇の中だ。

「政宗さんは、どんな願い事を?」
「願い?」
「ああ、そうか…こちらでは、お参りの時には、神様に願い事をする人が多いんです」

神頼みは、いつの時代にもあるものだ。
その感覚自体は理解できたのか、そう言う事か、と納得する彼。

「お前は?」
「え?」
「お前は、何を願ったんだ?」

政宗にそう問われ、紅はスッと前に視線を向ける。

「早く、あの時代に戻れるようにと」

そう、願いました。
紅の答えは、政宗にとっては意外なものだった。

「何でそんな事を望むんだ?ここの方が平和だろ?」
「ええ。あの時代よりもずっと、平和で恵まれた時代だと思います」

足を止め、政宗を振り向いて、彼女は「けれど」と続ける。

「私たちの作る未来がここに繋がると―――信じていますから」

政宗は紅を見つめ、ふっと口角を緩める。
そして、優しく彼女の髪を撫でた。

「そうだな」
「偶にはこう言う時間も良いとは思います。でも、やはりあちらで待ってくれている人がいますから…」
「ああ。羽を休めた後は、戻らねぇとな」
「そう言う事です」

お互いの思考が同じ所へと辿り着いた。
心の共有は思ってよりも心地良い。
紅は二歩ほど戻り、政宗の隣に並んだ。
そして、そっと彼の腕に自身の手を絡める。
次に目が覚めたら、あの時代に戻っている―――不思議と、そんな確信があった。










「姫さん、四国から手紙だ」
「ありがとう―――って、やけに大きいわね」
「鰤が大量だったらしい。…アイツは何度、俺を荷物運びに呼べば気が済むんだ…?」
「ごめんね。今度、言っておくわ」
「………いや、まぁ…姫さんが良いなら、いい」


「紅、ここにいたのか」
「政宗様。…氷景、下がっていいわ。長旅お疲れ様」
「…悠希からか?」
「ええ。鰤が大漁だったそうで」
「そうか。アイツらも、帰ってきてるんだな」
「そのようですね」
「…夢、だと思うか?」
「私は、どちらでも構いません。だって、私が今ここに居ること自体も本来ではありえない事ですから」

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あけましておめでとうございます。
いつも『Hora fugit』へのご来訪ありがとうございます。

皆様とのお付き合いが始まり、何年になるのでしょうか。
長い付き合いの方もいれば、短い付き合いの方もいるのでしょうね。
そんな、一期一会を大切にしたいと思います。
今年もサイト共々よろしくお願いいたします。

2012年が皆様にとって良い年でありますように。

Hora fugit 雪耶 紅

12.01.01