君と二人で異国の地

「何だか、つくづく異国だって感じるよね」

街中を歩きながら、紅はそう呟いた。
クリスマスから続くイルミネーションは、今尚街中を明るく照らしている。
25日が過ぎると一斉に片付けだす日本とは大違いだ。
最近では少し長く残している所もちらほらと見かけるけれど、数はまだ多くない。

「まぁ、それぞれの国によって違うしね」
「明日は幸いカレンダーのお蔭で休日だけど、本当は仕事なのよね…何だか不思議」
「それは確かに思う。俺だって明後日は練習…って言うか、試合だし」

慣れない部分はあるけれど、大いに楽しんではいる。
周囲から教えられる常識は、日本とは180度近く違っている事もあって。
毎日が発見の日々だ。

「ところで、休みは取れたの?」
「あ、言ってなかった?ちゃんと有休使って三連休にしたよ」

翼の問いかけに答えると、彼はこつん、と紅の額を弾いた。
聞いてないよ、と続ける彼。
そう言えば年末の慌ただしさで忘れていたなぁとここ数日を思い出す。

「久しぶりの日本だね」

楽しみ、とマフラーに口元を埋め、嬉しそうに笑う。
去年の4月にスペインに渡ってからは、日々の生活に慣れるだけで精一杯。
日本に帰る暇などなく、懐かしい友人たちとはメールでのやり取りが基本だ。
皆、それぞれの道を進んでいるから、メールだってそう頻度は高くない。
年始に一度帰ると言うと、新年会をしようと日程を組んでくれた。
一日、それもほんの数時間しか顔を合わせられないけれど、それでも十分すぎる。
次の週末を想うと、とてもワクワクした。







不意に、店先のウインドウが目に入る。
その中に陳列された商品を見て、パッとひらめいた。
そして咄嗟に、隣を歩く翼の腕を引く。

「何?」
「ね、寄っていい?」

紅が指差した店は、雑貨屋だ。
若者向けだけれど、落ち着いた品も取り揃えていると有名の店。
元々、今日は「スペインの町の新年の様子が見たい」と言う紅の要望でマンションを出てきた。
特に目的地はないので、寒さを凌げるなら紅の買い物に付き合っても構わない気分だ。

「いいよ」
「ありがと!」

数歩先を進んで店のドアを開く紅を追い、店内へと入った。
程よく調整された空調。
長時間過ごせばやや乾燥気味に感じるかもしれないけれど、外から入った時の暖かさは格別だ。
ぐるりと店内を見回す間に、紅は道沿いの窓の方へと歩いていく。

「何か目当てでもあるの?」
「うん。あのね」

頷いた紅が、ディスプレイされている置物を手に取った。
白ウサギが2羽、丸い台の上に乗っているオルゴール。

「毎年、一つずつ置物を増やしたいなって思うんだけど…駄目?」

慣れる事に必死でマンションの部屋には、生活必需品以外はまだそんなに揃っていない。
シンプルさが強調された室内を、もう少し何とかしたいと思っていたのだ。

「…年に一つでいいの?」
「や、もっと増やすけど…そうじゃなくて」

どう説明すればいいのかと頭を悩ませる紅に、翼は心中で笑う。
何となく、彼女の言いたい事はわかっている。
要するに『二人の軌跡として』一年に一つ、何かを増やしたいと言うのだろう。
翼は悩む紅の手から、オルゴールを取った。
そして、顔を上げる彼女に小さく微笑み、歩き出す。

「翼?」
「これは俺が買うよ」
「え?や…家の事なんだから、家計の方から出そうよ」
「ううん、俺が出す」

プレゼントされる理由がないと思っているのだろう。
断固として返そうとしない翼と、譲れない紅。
翼は彼女の目線の高さにオルゴールを持ち上げ、口を開いた。

「これ、気に入った?」
「…うん」
「じゃあ、やっぱり俺が買う」
「………意味が分からないんだけど」

むむっと口をとがらせる彼女に、クスクスと笑った。
そして、翼自身がいいなと思った置物を彼女の手に乗せる。
受け取った彼女は、きょとんと首を傾げた。

「俺、それがいい」
「…交換、ってこと?」
「ん。それを“俺たちの新年”にしようと思うんだけど、どう?」

いつもの、自信に満ちた笑みで紅に問いかける。
彼女は手の上のそれと翼とオルゴールを交互に見つめ、そして花開くように破顔した。

「それいい!すごく!」
「はいはい。店の中だから静かにね」

興奮した様子で抱き付いてくる紅を難なく受け止め、レジへと促す。
狭い店内だ。
二人の会話も筒抜けだったらしく、母親の年の頃の女性は微笑ましげに笑っている。

「折角だから、ラッピングはいかが?」
「お願いします!」

女性の言葉に即答する紅。
女性と翼がその反応に笑った。

「あら、あなた…サッカーチームの」

箱を用意しながら、女性が翼に気付いた。
はい、と頷くと、彼女はやはり笑顔を浮かべる。

「うちの旦那があのチームのファンでね…あなたにはとても期待しているのよ」
「ありがとうございます。頑張りますと伝えてください」
「ええ、もちろん。本人と会ったなんて言ったら、怒られてしまいそうだけど」

手早く、けれど綺麗にラッピングを終えると、間違う事無く二つの箱をそれぞれに差し出す。
お幸せに、と告げられ、紅は照れながらも頷いた。
カラン、コロン、とベルを鳴らして出た外はとても寒かったけれど、何故か先ほどよりも暖かく感じる。

「そろそろ帰ろうか?」
「うん!」

そうして、二人はまた、並んで歩き出した。


今を楽しむ事なら、今までだってできた。
けれど、これからの未来を一緒に考えるのは、今だから出来る事。
出来る事が増えて、したい事が増えて―――それと共に、思い出も増えていく。


綺麗にラッピングされた箱を見つめ、紅は嬉しさを隠せない笑顔を浮かべていた。

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あけましておめでとうございます。
いつも『Hora fugit』へのご来訪ありがとうございます。
申込みの際のコメントから、もう何年と言うお付き合いの方もいらっしゃるようです。
顔も知らないお付き合いではありますが、こうして共有できる―――ネット世界の素晴らしい所だなと思います。
今年もサイト共々よろしくお願いいたします。

2011年が皆様にとって良い年でありますように。

Hora fugit 雪耶 紅

11.01.01