不変の年明け

「…浮かれた連中だ」

そんな声が聞こえて、コウは顔を上げた。
室内にいる人間は二人。
もう一人の人物に視線を向けると、彼はソファーに深く沈んだままテレビに視線を向けていた。
大きな部屋に置いても負け劣らないサイズのテレビだが、そもそもテレビ自体が合っていない。
時間潰しのため、と持ち込んだ人物が誰なのか―――説明は、不要だろう。
テレビ画面には、イタリア国内の様子ではなく、日本の国の様子が映っていた。

「…初詣の様子ですね」

コウ自身もイタリア生まれのイタリア育ち。
日本と言う国で生活した事はない。
しかし、9代目から色々と話を聞いているために、ある種第二の故郷のような感覚を持っている。

「日本には年明けに神社などに参ると聞きましたが…こんな風に出店が並ぶものなんですね」
「…呑気なもんだな」
「まぁ、私たちには理解し難い風習ですね―――って」

思わず目を見開く。
それは、コウだけではなくXANXUSも同じだった。
もちろん、彼女ほど目に見えて驚きを露わにしたわけではないけれど、それでも言葉を失っている事は確かだ。
その理由は、テレビ画面に映る人ごみの中に、見知った姿を見たから。

「これ、並盛だったんですね」

カメラが遠いのか、何を話しているのかは聞こえない。
けれど、その姿は間違いなく、ボンゴレ10代目である沢田綱吉とその友人、もとい守護者たちだ。
長閑と言うか何と言うか…苦笑したところで、リモコンが飛んだ。
派手な音と共に液晶にヒビ。
画面は沈黙した。

「ベルが煩そうですね」
「フン…自分で片付けさせろ」
「伝えておきます」

何も、XANXUSが時間を潰している時に、並盛の…しかも、彼らを映さなくても、と思う。
今回は運が悪かったとしか言えない。
自腹だったのかどうなのかは知らないけれど、恐らく高額なテレビが一瞬で破壊された。
死ぬ気の炎をぶっ放さなかっただけでもまだ良い方だろう。

「ルシアはどうした」
「9代目の所です。毎年、日本流の正月に招かれていますから」
「―――――」

今しがた、日本の様子を見ていて気分を害しただけに、地雷だったかもしれない。
けれど、コウは臆する事無く事実を答えた。
どれほど機嫌が悪かろうと、XANXUSはコウに危害を加えたりはしない。
それは彼女自身の思い込みではなく、ヴァリアー周知の事実であり現実だ。
愛されていると感じるのは、自惚れではない。

「お年玉を楽しみにしていました」
「…何だ、それは」
「日本では親戚や両親から新年の祝いに小遣いを貰うそうです」

いつの間にか隣に来ていたXANXUSが、興味なさそうに「そうか」と返事をした。
そして、デスクの上の紙を拾い、ザッと読んでからピンと弾く。

「それを明日、ルシアにやらせろ。一人で成功したら、Sランクの報酬をやる」

ひらりと舞い落ちてきたそれに目を通す。
任務の内容は、まだランク付けしていないけれど、どれほど高く見積もってもCだ。
既にルシアはAランクを何度も経験しており、体調不良だとしても間違いなくこなせるレベル。
コウはクスリと笑い、書類にCのランクをつけ、報酬額を記入する。
そして、それをルシアの担当へと放り込んだ。

「きっと喜びます」
「…ルシアには言うなよ」
「何の事でしょう?」

別に話しても構わないと思う。
けれど、話さない方が、XANXUSらしくて良いのかもしれない。
気付かなかった振りをしながらも、コウは嬉しそうに笑う。

「コウ」
「はい?」
「お前、今日の任務はなかったな?」
「ええ。今日は書類の整理だけです」

どうかしましたか?と首を傾げたところで、グイッと顎を引かれた。
上等な革張りの椅子が無理なく回転し、デスクに背を向けたところで前に立つXANXUSが肘掛けに手を付く。

「…XANXUS、様…?」
「黙れ」

覆いかぶさるように腰を折るXANXUSとの距離が縮む。
吐息が触れる距離になったところで、二人の耳に音が聞こえてきた。
防音が甘いわけでもないのに聞こえてくる怒鳴り声に対する反応はそれぞれだ。
コウは「なんて間の悪い…」と溜め息を吐き、XANXUSは無言で腰の銃を抜く。
バーン、と扉が開かれるよりも一瞬前に、彼の銃が火を噴いた。

「何だァ!?敵襲か!?」

辛うじて最初の一発を避けたらしいスクアーロは、既に臨戦態勢だ。
自分を睨み付ける銃口を見て、敵はどこぞのファミリーでも何でもなく、我らがボスだと悟る。

「何でテメェが撃って―――」
「死ね」

二発、三発と順調に撃ち出される弾が、部屋の壁やら調度品を破壊していく。
ギリギリのところでヒビだけで済んだはずのテレビが今、粉砕した。

「…修理費が…」

機嫌の悪さが行くところまで行ってしまった。
そんなXANXUSを止めようとは思わない。
コウは部屋の修理費を考え、こめかみを押さえた。










「ただいま帰りました………何があったんですか?」

ドアのない部屋。
廊下から見ただけでも、その惨状は想像できたけれど、実はそれよりも酷かった。
片付けに借り出されている休みのはずの下っ端たちが、彼に頭を下げる。
ルシアは彼の横を通ってデスクの所にいたルッスーリアに近付き、問いかけた。

「あら、お帰りなさい、ルシア」
「何があったの?」
「すごーく機嫌の悪いボスと、すごーく運の悪いスクアーロが原因よ」
「あぁ…」

何となくわかった。
頭の良いルシアは、状況を正しく理解した。
そしてくるりと室内を見回し、いるはずの母を探す。

「母さんは?」
「はい、これ。ルシアの明日の任務だってコウから預かっておいたわよ」
「わかった。で、母さんは?」

無事だったらしい書類を受け取り、もう一度問う。

「コウは大事な任務中よ。ボスの機嫌直しっていうSSSランクの任務」

コウにとっては簡単すぎるかしら、とサングラスの奥でルッスーリアが意味深に笑った。

「あぁ…そう。何て言うか…仲良いよね」
「本当にねぇ!その内、弟か妹が出来るんじゃない?」
「あー…否定できない、かな」

ルシア、10歳。
彼は周囲の環境により、既に20代と引け劣らない精神を持っていた。

- - - -
あけましておめでとうございます。
いつも『Hora fugit』へのご来訪ありがとうございます。
申込みの際のコメントから、もう何年と言うお付き合いの方もいらっしゃるようです。
顔も知らないお付き合いではありますが、こうして共有できる―――ネット世界の素晴らしい所だなと思います。
今年もサイト共々よろしくお願いいたします。

2011年が皆様にとって良い年でありますように。

Hora fugit 雪耶 紅

11.01.01