それぞれの新年  赤髪海賊団ver.

「副船長、用事ある?」

コウはベックマンの近くへと駆け寄り、そう問いかけた。
彼は煙草の煙を彼女から遠ざけるように持ち直し、もう片方の手でその黒髪を撫でる。

「俺の所はいいから、お頭の所に行けよ」
「…うん」

返事の声がぎこちない。
まだ慣れないのか、と思うけれど、シャンクスは彼女のこんな反応を楽しんでいる。
寧ろ慣れなくていい―――シャンクスが人目も気にせずそんな事を言うから、彼女はまた逃げる。
この所、船の上ではそう言う光景が何度も見られていた。


自分から近付く事に躊躇うくせに、視線はいつでも赤を追っている。
そんな彼女に、ベックマンは気付かれない程度に小さく笑う。

「ほら行けよ」

そう言って彼女の背を押すと、彼は仲間に指示を出すべく別の方へと歩き出した。
二・三歩踏鞴を踏んだコウだが、文句を言おうにも相手は既に遠い。
むっと口を尖らせ、諦めたようにシャンクスの元へと歩き出した。
彼の傍にいたいと言う心もまた、自分の本心だから。

「コウ、ちょっと来てみろよ」

近付くよりも前にそう声をかけられる。
何だろうとシャンクスの傍に寄ると、彼は立ち位置を変えてそれを見せてくれる。

「これ何?服?」
「着物だってよ」

シャンクスの髪と同じ、赤を基調とした服。
着物と言われても形がピンと来ない様子のコウ。
すると、シャンクスの向かいにいた人物の一人、女性が彼女の手を取った。

「聞くよりも着た方が早いわ」

おいで、と手を引かれる。
驚いたコウだが、敵意のない女性に乱暴などできない。
困った様子でシャンクスを振り向くも、彼は暢気に女性と一緒だった男性と談笑している。
止めないと言う事は、構わないと言う事だろうと解釈し、大人しく女性に続いた。








男性はこの近くの村の長で、女性はその妻だと言う。
着物を着せてもらう途中、彼女からそんな話を聞いた。
漸く着付けが終わると、コウは苦しげに息を吐く。

「苦しい…ついでに動きにくい」
「着物はそう言う物よ。後は髪を結えば完成。あなたに似合いそうな簪があるから楽しみにしていてね」

女性はそう言って隣の部屋に消えた。
コウは目の前の鏡に映る自分の姿に、ほぅ、と感心する。
まるで自分じゃないみたいだ、と思った。
普段の快活さを重視した服装ではない。
肌の露出は殆どないのに、不思議と大人びた印象を持つそれ。
着物の効果はすごいのよ、と女性が拳を握って力説した意味が、理解できた気がする。

「さ、お待たせ!綺麗に仕上げてあげるからね!」

笑顔で戻ってきた女性に、コウは大人しく従った。











「………」
「………」

両者、無言。
片方はグラスが傾いている事にも気付いていないし、もう片方は視線を落としていて相手の反応に気付かない。
周囲の人間だけが、ただひたすら微笑ましげな視線を送っていた。

「あらまぁ…年甲斐もなく初々しいお頭ね」
「褒めるか貶すかどっちだ…」
「どっちも、よ。着飾った女を褒められないのは男じゃないわ」

後半部分は声を大きくしてそう言う女性。
その声に我に返ったシャンクスは、危うく零れそうだったグラスをテーブルに置いた。
そして、いつものようにコウの髪を撫でようと手を伸ばし―――飾りによって実行できず、彷徨わせた。
悩んだ挙句に肩に落ち着いた手に、コウが漸く顔を上げる。

「よく似合う」

はにかむように微笑む眼差しの優しさと言ったら――― 一瞬で全身の血が沸騰しそうなほどだった。
薄く施した程度の化粧では隠せないほどに頬を紅潮させたコウ。
あちらこちらと視線を逃がした後、意を決して彼を見上げる。

「これ、動きにくいの。息苦しいし…」
「確かに…見るからに動けそうにないな。苦しいって言うのも納得できる」
「うん。でも…シャンクスが、そう言ってくれると…嬉しい」

そう言って、コウもまた、笑顔を浮かべた。
耐えられなかったシャンクスが彼女を抱き締めるのも、恥ずかしすぎた彼女が黒猫になって逃げるのも。
赤髪海賊団にとっては日常的な光景だ。



「コウ~戻って来い!」
「………」
「何でいっつもベックマンの所に行くんだよ、お前は!」
「にゃー」
「猫語はわかんねぇよ!」
「…ほらよ、お頭」
「に゛ゃー!!」
「ぅわっ!投げんなよ、ベック!!コウが怪我したらどうすんだ!」
「…痴話喧嘩は他所でやってくれ」

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あけましておめでとうございます。
いつも『Hora fugit』へのご来訪ありがとうございます。
申込みの際のコメントから、もう何年と言うお付き合いの方もいらっしゃるようです。
顔も知らないお付き合いではありますが、こうして共有できる―――ネット世界の素晴らしい所だなと思います。
今年もサイト共々よろしくお願いいたします。

2011年が皆様にとって良い年でありますように。

Hora fugit 雪耶 紅

11.01.01